「愁、昴、聞いて!わたし、炎が…」
「おお、ボス!いいところに!見ろよ、俺、炎出せたんだぜ!」
言われなくても分かる。扉を開けた瞬間目に入ってくる異様な光、濃いブルー。
気付けばわたしは舌打ちをしていた。駄目ね、昴にも怖いなんて言われてしまって。でも、愁を追い越せたと思ったの。炎を灯せたのがわたしのが先だったって。あの愁より上にいったって。そう思ったのに、
「愁の癖に」
「ええ!?俺何かしたか!?」
「別に、何も」
「ええー…」
「それじゃわたしはトレーニングしてくるから」
納得いかない様子の愁は老いといて、わたしは第一練習場へと向かった。炎が灯せた位で浮かれてちゃ駄目。わたしはボスなんだから。強くならなきゃ。
「最近、稽古を頼まれないが」
「…申し訳ありません。自主トレーニングを強化していました」
扉を開けるとそこには叔父さまがいて息をのんだがそれは心の中に収まっていて、以前のわたしには出来なかったことだとこんなところで自分の成長を感じる。
不意に、叔父さまに指輪を見せるなと言った愁の言葉がよぎり、バレないようにスッと抜き、後ろポケットに隠した。
「これからは私が呼びに来た方がいいかな」
「そんな、お手を煩わせるようなこと!今まで通りわたしから行きます、本当に申し訳ありません」
最初の方は叔父様が迎えに来てくれることも多かったが、自分から断って、それからは自分で迎えに行くようになったのだ。
「いや、こういうのが本人の意志が一番重要だからな。それではついてこい」
「はい!」
ごめんなさい叔父様。わたしは貴方を騙すようなことをしている。でも、わたしが小さい頃からずっと側にいた彼がそう言うから。きっと、何かあの人なりの考えがあるんだと思うの。でもいつか、必ず貴方に言います。だから今は言えないわたしを許してください。
頭の中ではそんなことを考えて。でも前を歩く彼に気付かれないようにガードは堅く守って。矛盾している自分を嘲った。
「入れ」
「はい」
連れてこられたのは真っ暗な部屋。叔父様は証明を点ける気はないらしい。
「今日はこの中で戦ってもらう。既に私が用意した敵が3人紛れ込んでいる。倒すまで出てきてはならん!」
そう言って叔父様は出ていかれた。
この部屋の作りは当然知っている。家具も何も無い部屋だ。でも叔父様が態々用意したなら危険な物が転がっていてもおかしくはない。真っ暗で感覚が掴めないから早く倒さなきゃ、今いる場所さえも分からなくなる…!
「とっととかかってきなさい。すぐに片づけてあげるわ!」
瞬間、投げられたナイフ。咄嗟に避けたから左頬をかすっただけで済んだけれど、……これは本気だ。
叔父様が用意した人たち。半端な人間である筈がない。
「ぐあっ」
ナイフがきた方向へ投げ返すと当たったらしく声が聞こえた。よし、これでやっていけば…!
「くっ」
その矢先、後方から左肩を刺された。相手は3人。向こうが有利であることを忘れちゃ駄目!
次は後ろを振り返り、右手で銃を抜き発砲するが…壁にめり込んだ音しか聞こえず逃げられてしまったようだ。
残されたのは、自由に歩ける両足、そして右腕。左腕も使えないことはないけど、痛むので極力避けたい。
相手は何処にいる?前?後ろ?それとも左右?かたまっている?それともバラけて───息を潜めても気配は感じられない。物音さえ全く聞こえない。こんな時、どうすれば…
「うっ」
わたし1人か悶々と考えを巡らせていても、相手からの攻撃が弱まる訳じゃない。正直、避けるのが精一杯だ。攻撃がきた方向へ撃っても、逃げるのが速くてもう当たらない。勿論予備の弾なんて持っていないから乱射する訳にもいかないし…相手はどうやってわたしに攻撃してるんだ?同じ条件下の筈なのに。もしかして、暗闇の中でも見える眼鏡をしているとか!…真面目に考えろ、自分。どうやったら相手の位置がわかる…
あ!わたしは今まで叔父様から何も教わってきたんだ!活かさなくてどうする!これは応用ってことですね、叔父様!
─────視えた!
「いけえ!」
乾いた音が3連発。後から届く人の声。これでまず、一発ずつ撃ち込めた。心が動くのが視える。近づいてきてる。次の攻撃も、視える…!
視えた通りに振りかざされる刀を難なくすり抜け、相手の脇腹に撃ち込む。特有の鈍い音が聞こえる。わたし、視えるんだ!攻撃もすべて!
その後は夢中だった。ただひたすら視える心を追いかけて、攻撃を読んで、かわして。恐いものなんて無かった。だって、心を感じているだけだから、前も後ろも関係ない。死角なんて無い。
「お疲れ。よくやった」
「叔父様のお陰です」
3人が再起不能になったところで叔父様が入ってきて、電気を点けた。
「血が、出てない…?」
「3人には特別な防具服を、着せてある。攻撃を受ける程身体が重くなるんだ。部下を殺されてしまっては、困るかな」
「はあ」
そんなものまであるのか。叔父様は色んな物を持っていらっしゃる。
「わたしの相手をしてくださり、ありがとうございました」
倒れている彼らの服の脱がし方は流石にわからないので、とりあえず側にしゃがんでお礼を言った。
「では私は夕食をとってくる」
「いってらっしゃいませ」
さて、傷だらけになってしまったこの部屋をどうしようかと考えていると、床で寝転がっている1人に呼ばれた。
「後ろのボタンを押してくださいませんか?」
「これ?はい」
ぽちりと押すと大袈裟な音を出して服は外れた。何とも不思議な物である。3人を順に外していった。
「ありがとうございます」
「いえ。わたしに出来ることなら何でも言ってくださいね」
「あの…」
「はい?」
その人は少し言いにくそうに顔を背けた後、どうかお気をつけて、と言った。さっきまで戦っていた相手にそんなことを言えるなんて、素敵だと思う。きっとボンゴレとのことだろう、わたしもありがとうございますと笑顔で返した。
「ボス!」
「なに?」
「またそんな格好で…すぐロゼットのところへ行かなくてはいけないと言ったでしょう!」
「あ、忘れてた」
「そのようではロゼットが泣いてしまいますよ」
「それもそうだね」
踵を返して医務室へ向かう。とレイチェルがついてきた。お供します、だって。そんなにわたしがちゃんと医務室に行くか心配か。
「ロゼットー?」
「これはお嬢様。結構なお怪我じゃないですか」
切り傷が素早く消毒され、絆創膏が貼られていく。
「怪我をしたらすぐ来るよう言いましたよね?お嬢様。これはどういうことですか?」
「え、ええと…」
「それにこの左肩。これでよく放置する気になりましたよね。尊敬しますよ」
「ありがとう」
「誉めてないですからね」
「…はい」
無駄口を叩いているようで、手際良く手当をしていく彼を見ると、やっぱりちゃんとした医者なんだなと思う。普段が普段だからただのふざけた大人だと思うことも多々あるんだけど。
「次やったらお仕置きですからね」
「お仕置き?何?」
「何にしましょうか。お嬢様ならどんな格好でも似合うと思いますけど、僕はやっぱり…」
「いい加減にしろこのエロ魔神!」
「愁!」
急に入ってきた愁に嫌な顔をしながら、ロゼットはまた手当に戻った。というのも、このやり取り、ロゼットが顔を近くしてきて、手の方はお留守だったのだ。ロゼットが顔が近いのは昔からだし全然何とも思わないんだけど。
「それよりボス!花束が届いています!」
「誰から?」
「…沢田綱吉」
どうして今?そして何のために?
ロゼットに手早く処置をしてもらい、置いてあるという自室へ向かう。
置いてあったのはわたしとは不釣り合いなピンクの花ばかり使われた可愛らしい花束。もっと女らしくなれっていう嫌みかしら。刺さっていたカードにはフルネーム以外に何も書かれていない。
120929