昴が京子に手紙を渡してから一週間は経った。京子をこっちの世界には連れて来ちゃいけないから、嘘までついて、顔も合わせずに。
学校に提出していた住所は此処じゃない。ダミーの家が建った、もっと別の場所。年始になると数人で年賀状とか色々な配達物を取りに行ってもらうのだ。だから京子が知ってるのは其処の住所。行ったところでダミーの家が建っているだけだけど、それでさえも来てほしくはなかったのだ。特に理由は無いけれど。こんなつもりじゃなかっただなんて書けなかった。書ける訳がなかった。そんなのは今じゃただの言い訳になってしまうから。京子をこっちの世界に連れてきてはいけないというより、本当は惨めな自分の姿を見せたくなかったなかもしれない。
「はぁー…」
「どうした、溜め息なんかついて」
元はと言えばお前の所為だ、とも言えず、デスクに視線を落とした。相変わらず愁はわたしの部屋にいることが多い。別に仕事をやるのは構わないのだけれど、なんかなぁ…。
「梨奈さん!」
「おお、どうした」
「例の物が届きました!」
「本当か!」
慌ただしくドアを開けて入ってきたのは昴。昴は手に小さめの箱を持っている。こんなものは流石に宅配便屋に任せる訳にもいかないのでヘリで送ってもらったのだ。
「良い出来だな、流石だ!」
「俺にも見せてくれ!」
「僕のもちゃんとありますかね!?」
届いたのは指輪。専属の武器屋がイタリアにあり、そこの者に作らせたのだ。わたしの武器といえば昔から持っている双銃しかなく、探すにもいいけどどうせならということになったのだ。それに合わせて昴と愁のも作らせた次第である。
カレゾフリング。そんなものが、無かった訳でもない。ボンゴレリングやマーレリング、トゥリニセッテなどのような大きな力を持つ訳ではないが、今の時代、何処のファミリーでもリングで継承を行っている所が多い。しかし、カレゾフにはそれがない。ボスが指名した者が次期ボスとなる。カレゾフリングは、父と共に無くなった。父が死んだその戦いで、待っていたかのようにリングは割れ、粉々になった。相手ファミリーに踏みにじられ、最後には消失した、と聞いている。このリングも、わたしの役には立ってくれるであろうがカレゾフのリングになることは、まずない。
新しい指輪を左手の人差し指に嵌めた。
──お父様、どうかわたしが立派なボスになれるよう見守っていてください。
「さあ特訓するぞー!」
「またやる気出してるし」
「まぁ、梨奈さんですから」
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