「あれ、どっか行くの」
「うん。来て早々悪いんだけど、付き合ってくれない?」
いつものように、休日仕事場に立ち寄ったら、いつもとは違って出掛ける様子の最高がいた。紙とペン先を買いに行くらしい。
こんな風に最高とお出かけなんて、いつぶりだろう?普段だったら忙しくて外にも出ないからわたしが毎日此処に来て、必要さえあれば買い出しに行くくらいなのに。
やばい、これはかなり嬉しい。
「お願いだから街中でにやけないでね」
「え、嘘、にやけてた!?」
「うん、がっつり」
わたしとしたことがッ…。いや、でも最高に構ってもらえるなら本望…って何よわたし。最高信者みたいじゃん。そんなのあったとしてもたったの1人だよ。それに、いつも最高に放置されてる訳じゃないし。ちゃんとお話くらいするし。でもでも、久しぶりの2人で買い出しは思わずにやけるくらい嬉しい。
はっ、これはもしや、久しぶりのデートなのではっ!?
「いつにも増して百面相だよ名前…何かあった?」
「いえ!ぜんっぜん!」
「…そう」
全力で否定したら逆に引かれた…?でもないような。でもいいんだ、そんなことくらいじゃわたし達の絆は壊れないから!
「名前、手」
「あ、はい」
ああ、最高の手、冷たい。ひんやりしてて気持ちいい。ふと見ると黒く汚れていた。いつも漫画頑張ってるもんな、そんな最高がどこのヒーローよりかっこいいと思う。
「おおー画材屋さん…!すげえ」
「騒ぐなよ」
「うん」
すたすたと歩き慣れた様子の最高に引っ張られて店内をうろうろする。途中見かけた絵の具が並んでるようなところなんてカラフルで凄く素敵だ…!飾るところなんてないのに家に置いてみたいと思う程。ちらっと見た値札は高額でとても手が届かないが。ま、どうせあっても使わないしね。でもこんなところで働いてみたい。
「1293円です」
「…はい」
「レシートとお釣り207円です。ありがとうございました」
ジーンズの後ろポケットから無造作にお金が出てきた。しかもレシートとお釣りをわたしに渡してくる始末。え、何これ貰っていいの?
「なんか欲しいもの、ある?」
「ないよ!」
「あ、そう。じゃあ帰るか」
一度手を繋いだら、また仕事場に戻るまで離すことはなかった。なんだろう、この嬉しさは。愛しさがこみ上げてくるみたいな、
「最高コーヒー淹れるねー」
「ありがとー」
あんまりデートらしいことも長いこと出来てなかったし、それを気にしてくれたんだろうか。そうやって、最高の中のわたしを確認する度嬉しくなって、幸せになる。いつも漫画ばかり描いていて、わたしのことを構ってくれないことが寂しくないとは言えないけど、いつも一緒にいれるから。そしてたまにはこうやってわたしのこと気にかけてくれるから。
「はいどうぞ」
「…名前、ちょっと目瞑って」
「え、何?ゴミついてる?」
「うん」
最高の指がわたしに触れるのを待っていると首元にひんやりとしたものが触れたので、思わず目を開けてしまった。
「まだ良いとか言ってないのに」
「えっ?これっ…」
「この前見つけたんだ、名前に合いそうだと思って。いつもごめんね、恋人らしいこと何も出来なくて。俺の我が儘に付き合ってくれてありがとう」
「我が儘なんかじゃないよ!大事な仕事じゃん!」
「うん」
「待って、鏡…」
どんなネックレスをくれたのか、見たいけれどチェーンが短いらしく首を下をやってもよくわからないのだ、残念なことに。
慌てて鞄から出した鏡に映っていたのはシンプルなハートのネックレスだった。
「かわいい…」
「やっぱり名前似合う」
「ありがとう」
こんな可愛らしいネックレスを、最高が買いに行ったんだと思うと最高が可愛らしく思えてしまって。
「何笑ってんの?」
「なんでもない」
「言ってよ」
「言わない」
「ねえ何?」
「教えない」
この想いも、ネックレスも、大切にしよう。
プレシャスメモリー
あとがき