「あ、れ?この人、なんか見たことある気が……高木知らない?」
「え?どのひ、と……?」
見吉が見ていたのは有名な音楽番組で、それに出ている人が見たことがあるのだという。俺は実際興味無く、頭の中ではネームのことでいっぱいになりながら振り返ると、
中学時代恋焦がれた彼女の姿があった。
「高木?どうしたの?」
「これ、中学の時の苗字名前だよ!」
「ん〜……あっ思い出した!あの美少女か!まさかアイドルになってるとは…」
「芸能コースがある学校に行ったのは知ってたけど…」
デビュー早すぎだろ。高校始まってまだ少ししか経っていないのに……そんな簡単にデビュー出来るもんなのか…?あ、でも芸能事務所に所属してるって話も聞いたことあったからな…普通なのかも。
恋い焦がれたーなんつっても実際話したのは数回しかないし。見吉と付き合うまではそれなりに話しているつもりだったけど見吉と付き合ってるという噂を聞いて、(噂広がるのマジで早かった…)お似合いじゃん、おめでとう!なんて言われたら勝ち目ないだろ…。いや、誰とも戦ってなかったけどな。其処で俺の恋は終了した訳だ。ジ・エンド。見吉を裏切る訳にもいかなかったし…。今まで誰にも言わなかったけどな。…こんなの誰にも言えないだろ!
まあ、苗字さん彼氏いたし、諦めがついた筈だったんだけど、今俺が思っていた以上に反応してるってことはまだ諦めがついていなかったらしい。こんな女々しい男にはなるつもりなかったんだけどな。
「真ん中ポジションだ!」
「リーダーなんじゃん?」
「なるほど。確かにしっかりしてる子だったよね。こんなかで一番可愛いよ苗字さん」
そりゃあ俺が惚れた女だもん、なんて言える訳がなく、仕方が無く口を結ぶ。(そんなこと言ったら見吉に天国飛ばされそう)
「歌、美保よりうまいね…」
「そりゃあアイドルなんだから当たり前だろ。それにあれだったら見吉のが上手いんじゃん?聞いたことないから知らないけど」
「えっ?私の歌声聞きたい?」
「全然」
「……」
「…っつ!ギ、ギブギブ死ぬ!」
「……」
「っはあ!はあ、はあ」
『そういえば苗字名前さんには弟さんがいるそうですが、2人並んでいるとカップルに見えるそうですね』
『そうなんですよ、よく間違われるんです…』
『名前の弟スッゴいイケメンなんですよ!』
『そんなことないって』
『そんなわけで写真があります』
『えっ!?』
「本当にイケメンだ。美男美女兄弟かよー」
「っ」
放課後他校の男子と二人で居るところを目撃して、それを彼氏だと勝手に思い込んでたのに画面に現れたのはそいつで。今まで俺は苗字さんと並んでる弟を彼氏だと思っていたのか…。俺も他の奴と変わらず騙されていた、と……。
「あれ?高木?どうした?」
「いや、別に…。苗字さん可愛いなあと思って」
「……」
「暴力は無しな。これは普通の男子の意見だから!なあサイコー?」
「え?何」
「サイコー聞いてないんじゃん」
「いてっ!」
それにしても見吉のパンチは良く効くな…いった。でも今ので吹っ切れたかもしれない。苗字さんはアイドルグループの主要メンバーとして頑張ってる。俺だってサイコーとアニメ化目指して頑張っているし、俺の隣には見吉がいる。いつまでも引きずる訳にはいかないんだ。
「おっし、次の話考えないとな!」
「なんかやる気じゃん」
「まあな」
青カビの思い出
さらば俺の恋心よ。