「こんにちはー」

「名前さんか、いらっしゃい」


 出迎えてくれたのは吉田さん。でも、これから出るところだったようですぐ行ってしまったけれど。


「名前、何しにきた」

「叔父さん…」


 ただ編集部に来ただけなのに、叔父さんは怖い顔でわたしを見てくる。叔父さんはこのジャンプ編集部の一番偉い人だから今までもいきなり来ることあったのに。
 どうして今回だけこんな形相されなきゃいけないの。


「来ちゃいけないんですか」

「こんな男だらけのところに1人で来るんじゃない!」

「汚いってことですか?だったらわたし気にしませんから。あ、何だったらお掃除しましょうか?」

「そういうことを言っているんじゃない」


 じゃあ何ですか、そう問えば叔父さんは黙ってしまった。言えないようなことなの?
 あーあ、編集部内が静まり返ってしまった。わたしが来たから?いいえ、違う。叔父さんが気を悪くするからよ。


「言っておきますが、お父さんは許してくれました」

「叔父さんのところ行ってくる、って言っているんだろ?」

「勿論です」

「はあ」


 大きくため息をついて叔父さんは腰かけた。あいつめ…という独り言が聞こえるけど、言い争いは終わったから居てもいいってことかな。


「名前ちゃん、」


 小声でわたしを手招きしたのは服部さん。あ、毛の茶色い方ね。確か名前は雄二郎さんだった筈。

「なんですか?」

「名前ちゃん最近福田君と付き合い出しただろう?」

「な、何で知ってるんですか!」

「しーっ!福田君が此処に乗り上げてきて編集長に言ったんだよ、自分で」


 確かに、福田君とは最近付き合い出した。でもそんなことするなんて想定外だよ福田君…。福田君のことだから多分「名前は俺のもんになった」とかって何かを突きつけるみたいに言ったんじゃないかな、叔父さんに。偉そうな態度で、さ。


「それから編集長は機嫌が悪いんだよ…」

「姪馬鹿だからな」

「相田さん…」

「そう、名前ちゃんには甘いだろ?それなのに福田君があんな態度で言うからさ…」


 やっぱり福田君はわたしが思った通りの態度で編集長に向かったらしい…。福田君らしいと言えばらしいけれど。叔父さんは編集長だけどわたしからすれば身内な訳でやっぱりそんなこと言っちゃってたなんて恥ずかしい。


「それにしても顔赤くしちゃって初々しいな」

「相田さん…!」

「俺もそれは思ってた」

「からかわないで下さい!」

「名前ちゃんに愛されてる福田君は幸せ者だな」

「っ」

「お、また赤くなった」


 からかってくる大人2人を置いて、わたしは叔父さんの机の前に行く。叔父さんと何年付き合ってると思うの?不機嫌な叔父さんの機嫌の直し方くらい知ってるもの。


「叔父さん」

「なんだ」

「わたしは福田君が好きです。この気持ちに偽りなんてありません」

「……」

「差し入れもってきたので許して下さい」


 編集の人達のえっという声が聞こえる。けどそんなこと知らないわ。叔父さんがわたしに甘いってさっき雄二郎さん言っていたけど、だったらそれを利用しないでどうするの。


「叔父さんが好きな抹茶プリンです!」

「……」

「だから、お父さんには秘密でお願いしますね」

「ああ」


 ほらね、叔父さんは機嫌を直したみたいで早速紙袋を開けてる。物でつる、とかそういう訳じゃないけど結果オーライで良いよね!

 振り返れば、ポカンとしている編集の皆さん。わたしの力を思い知ったか、大人しいだけじゃないんだから。そういった意味合いを込めてVサインを出す。
 皆さんにはこれです、と叔父さんに渡したのよりも二周り程大きい袋を服部さんに渡した。口、開いてますよ。

 さーてわたしは福田君のところにでも遊びに行こうかな、


あわよくば天使
(寧ろ悪魔かな)





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