「名前、好きな人教えてよ」
「えーいないもん」
「嘘じゃないよ、本当だって」
「……本当に?本当の本当にいないの?」
「本当の本当にいないよ」
嘘。わたしだって恋くらいする。小学校から一緒だった池沢佳主馬君。小5の途中から好きってことに気がついて、かれこれ3年くらいの長い片思いの真っ最中だったりする。
小学生の頃はいじめられっ子でそんなに人気の無かった彼も、今や片手の指に数えられる程のモテる人となってしまった。周りのふざけている男子達とは違い、独特の落ち着いた雰囲気を持っている、そんな彼に惹かれたの。
友達とか人に教えないのは、特に大きな理由は無いけれど、女子特有の陰気ないじめとかが嫌いだから。あと、彼女になる気など毛頭ないのに協力してもらっても困るから。わたしだって高嶺の花に手を出すような馬鹿じゃない。
でも、高校受験の勉強をしていると、池沢君は何処の高校に行くのかな、とか心の片隅で考えている自分がいる。そんなこと考える暇があったら集中力をもっとつけて欲しいんだけど。──だなんて自分で自分が収集つかなくなってきたりして。それもこれも全部恋のせいだ。
*****
「………さん、苗字さん」
「…っ!!??」
ぱちっと目を開けると池沢君がいた。
「もう学校終わったよ。友達帰っちゃったみたいだったから、一応起こした方がいいかなと思って。」
私の席の前の椅子にこちらを向いて座っていた。池沢君が話しかけてくれてるってことが嬉しいんだけど、まさか寝顔を見られるとか思ってもいなくて。心臓がいつも以上に速く動いていた。
「そう、なんだ。起こしてくれてありがとう」
「………」
「………」
会話がない。なに、この気まずい雰囲気。
「僕ね、」
「うん」
「名前さんが好きなんだ」
「え……?」
今まで聞こえていた校庭で騒ぐ人達の声とか、廊下に響く上靴の音とかが全てシャットアウトされて、わたしの耳には池沢君の声だけが届いた。
池沢君がわたしを好き?いや、そんな筈はない、ないよ…。だって池沢君の周りにはいつもとりまきの女の子達がいるし、わたしみたいに何の取り柄もなくて、容姿だって中の中ぐらいな子なんて目に留まる筈がない。わたしなんかより可愛い子はいっぱい───
「ねぇ、苗字さんはどう?」
「わたしは……」
そりゃわたしは今までずっと池沢君が好きで、池沢君ばっかり見ていて。そしてきっとこれからもそうで。……だけれどそれをそのまま言ってしまっていいの?
池沢君の方を見ると、真っ直ぐ見据えた目でわたしを見ていて。嘘なんかつけないなと思った。
「わたしも池沢君が好き」
「そう、良かった」
一言そういうと、椅子をひいて立った。
「付き合ってくれるよね?」
「うん」
なんかちょっと恥ずかしくて俯いて答えた。
「池沢君、あのさ──」
「うん、なに?」
「高校、何処行くの?」
「西高」
「西高?良かった、同じだ…」
「名前さんが西高だって聞いたから、西高にした」
この人はどれだけわたしをドキドキさせるんだろう。高鳴る胸に、わたしはこれからも彼が好きだと思った。
「帰ろっか」
「うんっ」
サヨナラ昔のわたし
(例えつりあわないとしても)
(彼が愛してくれるなら)
□□□□
リクエストありがとうございました、冬秋様に捧げます。
101112