今日は翔ちゃんとデートの約束だ。分かっていながらもわたしはまだベッドから抜け出せていないでいる。ああ、やばい。時計は10時50分を指している。あと10分で翔ちゃんが来てしまう。まあ彼のことだから少しの遅刻を見積もったとしても、今から準備じゃ到底間に合わない。とりあえず顔は洗わなくては。そう思って重い身体をベッドから引きずり出した。
*****
───ピンポーン
呼び鈴が鳴り響く。インターホンを確認するまでもないけど、見るとやっぱり翔ちゃんがいた。『宅配便でーす』何故か敬礼しながら言う。あー来ちゃった、なんて思いながらドアを押す。
「名前ー!迎えに来たぞー」
「はーい」
「って、まだパジャマじゃんか!」
何を想像したのか知らないが顔を赤らめて言う翔ちゃん。だって起きたばかりなんだもん。こんなこと言うのおかしいかもしれないけどやっぱりこの寒い時期に外に出る約束したってベッドから出られる訳ないと思うんだ。でもね、翔ちゃんとは一緒にいたいの。
「やっぱり今日外出るのやめて、お家デートにしよう?」
「お家デート?」
「うん、入って?」
そろそろと足を踏み入れる翔ちゃん。そうだよね、初めてだもんね、お家。とりあえず着替えるから待ってて、と彼を部屋に置き去りにした。
「はい、お待たせ」
適当にジュースとお菓子を持って戻った。いきなり現れたわたしに息を呑む翔ちゃん。やだなあ、いつものわたしと同じじゃない。
さっきまでいたとは言え、温もりがあるのはベッドの中くらいで部屋自体は肌寒い。だからと言ってそう軽々しくベッドに腰掛けるのもどうかと思うし(彼に限って許可なしに襲ってくるなんてことはないと思うけど)、とりあえず翔ちゃんを見つめてみた。
「な、なに……?」
「翔ちゃん、ぎゅーしていい? わっ」
答える前にわたしに抱きついて、「だめなワケないじゃん」といたずらっぽく笑う。あーやっぱり、温かい。翔ちゃんは子供体温だから、いつも温かい。
「翔ちゃん温かい」
「そう?走ってきたからかな」
違うよ、翔ちゃんはいつも温かいんだよ、その言葉は口から出る前に、消えた。
「おひさまの匂いする」
「俺の家の柔軟剤、多分それだ」
「そうなんだ」
多分翔ちゃんの家の柔軟剤がおひさまの匂いする奴じゃなくても、翔ちゃんはおひさまの匂いすると思うなあ。首に顔をうずめて、鼻をすんすん鳴らす。
「そんなとこ嗅ぐなよな」
「なんで?いいじゃん」
だって翔ちゃんおひさまの匂いするから。おひさまの匂いって安心するんだよ。違うな、翔ちゃんの匂いだから安心するんだ。
「翔ちゃん」
「ん?」
「顔見て」
首から顔を翔ちゃんの前に持ってきて、翔ちゃんのくりくりのおめめを見る。翔ちゃんもわたしを見てる。
「ちゅーしたい?」
「……」
ごくり、翔ちゃんの喉が鳴った。
「したい」
ちょっと火照った翔ちゃんの顔が見えて、翔ちゃんとの距離はゼロになった。わたしは目を閉じて、暗闇に沈んだ。
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お前の性癖なんか知らねえよ!(笑顔)何だかね、あんこさんを考えるといつもお相手と部屋で二人っきりなんだよね。教室でも良いなあとか考えたけどやっぱりあんこさんはお部屋なんだよね。教室じゃないんだよね。てな訳で翔ちゃんにぎゅーしてくんくんしておまけにちゅーさせたけどどうよ?苦情は受け付けるよ!ではまた!
0130330 碧子