『ハッピーニューイヤー!!!!』
「うるさ…」
この忙しい年末に急に電話するなんて、流石は彼というべきか。ヴァチカンでは新しい一年を迎える為の準備に追われ、皆忙しなく動いているのだ。
「あのさぁ、まだ新年迎えてないの、こっちは」
『わかっとるよ。あと何時間やったっけ?』
「8時間」
『んー…じゃあまだ4時ゆうことか!いやーヴァチカンは遅れてはるなぁ』
あ、やばい。ちょっと苛々してきちゃった。折角電話くれたのに。声聞けて嬉しい筈なのに。せめて忙しくなければ。それさえなければ思う存分話せたのに。電話料金とかそんなの考えないくらい。
「名前ー!暇ならこっち手伝ってー!」
「あ、うん!今行く!」
『どないした?呼ばれはった?』
「うん、ごめんね」
『ええよ、忙しいの分かっててかけた俺も悪いし』
「じゃあ、切るね。新年おめでとう」
『おう。苗字も無茶だけはせえへんといてな』
うん、と簡単な挨拶で電話を切り、携帯をポケットにしまう。彼はもう、今流行のスマートフォンとやらに乗り換えたのだろうか。
もっと時間の余裕がある時にかけてきてくれたらよかったのに。金造のばか。一段落ついたら、って、新年あけたらだから、最低でもあと8時間はかかる。けど、今度はこちらから電話してみようか。いや、そしたら向こうは朝の8時。今日はみんな夜遅くまで夜更かしする筈だから金造も寝ているかもしれない。大晦日で彼だってずっと仕事に追われて疲れている筈だ。起こす訳にはいかない。
*****
「「「3、2、1、ハッピーニューイヤー!」」」
「今年も宜しくね、名前!」
「うん、こちらこそ宜しく」
今年も、誰も祝ってくれない、か…。仕方がない。みんな一緒なんだ、忙しいのは。日が昇れば重要なミサがある。2013年になってから初めてのミサ。これには沢山の人々が出席するし、聖堂の周りにも沢山の人が並ぶ。なんてったって世界中から人が集まるんだから。元旦が誕生日で、祝われないことにはもう慣れた。
“トゥルルル トゥルルル”
その時、ポケットの中の携帯が振動した。何でこんな時に。少しくらい睡眠とっておかなきゃ、後で動けなくなるっていうのに。
『よっ』
「…金、造?」
『俺以外に誰がおるんや』
画面もろくに見ずに耳に押し当てて、聞こえてきた声は金造で。寝てるんじゃなかったの、只のわたしの取り越し苦労だったの…?
『あけましておめでとう、やろ?』
「うん、…あけましておめでとう」
『それから、誕生日おめでとうな』
「えっ…覚えててくれたの?」
『当たり前やろ?彼女の誕生日くらい覚えとらんとどないするんや』
「だってさっき、何も言ってなかった…」
『わざとや、わざと!…悟られとうなかったんよ』
なんだ、いたじゃん、わたしの誕生日覚えててくれる人。わたしを忘れないでくれてる人。大切に想ってくれる人。こんなに近くに、いたじゃん。距離的には勿論遠いけど、飛行機で半日もかかるけど。こんなに近くにいたじゃん。
『19歳おめでとう』
「きんぞ〜…うう」
『何泣いとんの、もう』
聖十字学園を卒業して、すぐに任務についた。1人で来たヴァチカン。今じゃもう、1人じゃないし頼れる人もいる。けど、やっぱり、金造が恋しい。会いたい。懐かしい彼に触れたい。キスだってしたい。わたしの知らない間に、彼がどう変化したのか、はたまたしてないのか、見てきたい。
「今度、帰るね」
『いつや!?』
「まだ、わかんないけど」
新米だからきっとお願いは通らないかもしれない。休暇をもらえたとしても、少ないかもしれない。それでも。絶対、彼に会うために。
「帰るよ」
『…わかった、待っとる』
その彼の言葉はわたしの心に響いて浸透し、暫くして底に居座った。
『名前、愛しとるよ』
その言葉を信じているから、わたしは此処で頑張っていけるんだ。
「わたしも」
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こりあんさん、お誕生日おめでとうございます!ヴァチカンと日本の時差とか考えたらヒロインが向こうに行っているっていうのに落ち着いたんですが、どうですかね?1人で頑張ってて、その緊張した糸を緩めてくれるのが彼とか、素敵すぎる。急にやる気の増えたヒロインに同期達はきっと驚く筈だ。うん。では、こんなもので申し訳ないですが、リクエスト消化とさせていただきます。ありがとうございました。どうぞこれからも宜しくお願い致します。
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