「理一さん」

「ん?何?」

「…き、今日、」

「今日?」

「今日、…何の日か知ってますか」


 あー、何でこんなこと言ってんだろわたし。こんなに近くにいて、こんなに真っ赤になって。


「何の日だっけ?8月14日でしょ?何かあったっけ?」


 終わった。日付もわかってるのに思い出してもらえないなんて、終わった…。
 8月14日。それはわたしが生まれた日、つまり誕生日。大好きな理一さんに祝ってもらいたくて、仕事終わりに理一さんの家に着てみたけれど、何も言ってくれないから自分から気付かせようと仕掛けた、のに…


「…うっ、ひくっ」

「ちょっと名前?何泣いてるの?」


 理一さんがいけないんだから。わたしを泣かせたのは理一さんなんだからね。
 家に来ても気付く気配すら無い上に、普通に「ご飯何にしようか」とか言ってくるし。わたしなんて、理一さんの中ではご飯以下なんだ、きっとそうなんだ。


「帰る」

「ちょっと待ってよ名前!何そんなに泣いてんの?俺何かした?」

「したよ!」

「え?」

「自分で気付くまで会わない!」


 置いてあった鞄を掴んで、無造作にヒールを履いた。そしてドアの鍵を開けて、


「はいストップ、そこまで」


 理一さんに後ろから抱き締められた。


「やだ、離してよ!」

「何をそんなに怒ってるの、名前ちゃん」

「またそうやって子供扱いして、わたしなんか理一さんの中でどうだっていいんでしょ!」

「…どうしてそんなことになっちゃったのかなぁ。俺が誕生日忘れてると思ったから?」

「!?…もしかして、わざと、知らない振りして…」

「はは、当たり」

「っばか!」


 後ろをちょっと見ると少し申し訳なさそうに笑う顔が見えた。その顔が愛しくて、やっぱりこの人のことは大好きだって思う。


「大事な人の誕生日を忘れる訳ないじゃないか」

「おじさんだから忘れちゃったのかと思った」

「そんなことも忘れてたら仕事でミスばっかりしちゃうよ」


 まるで子供をあやすように、わたしの頭に手を置いている。わたしは理一さんがわたしを騙したこととか、こうやって子供扱いすることに対して口を尖らせている。だってそりゃそうでしょう?折角の誕生日なのに、こんな…


「あーもう泣くなって。折角の可愛い顔が台無しだよ?」

「本当にそう思ってる?」

「…本当は泣いた顔ももっと見たい」

「そこじゃない!」


 可愛いってところをもう一回言ってほしかっただけなんだけどな。なんか理一さん見てたら今まで考えてたこと全部アホらしくなってきた。


「本当はちょっとしたレストラン予約してあるんだ。行く?」

「行く!」

「じゃあ機嫌直して、名前」

「はーい」


 理一さんはわたしの機嫌を直す方法も知ってる。どうすればわたしが喜ぶのかも。わたしのことは全部知ってる。わたしの知らないことも、全部。


「ねえ理一さん」

「ん?」

「今日何の日か知ってる?」

「名前の24歳の誕生日」

「うん」

「それから、俺が名前にプロポーズする日」

「…へ?」

「名前、誕生日おめでとう。結婚しよう」




涙味

□□□□
お誕生日おめでとうございます!あんまり日付より早くは仕上げられませんでした、すみません(^へ^;)ただ、理一さんは割と好きな子程苛めたくなるタイプだと思うので知らない振りしてすっとぼけるという。だからディナーを外で予約してあるのにも関わらず「何する?」とかって夕飯の話するんですね。それでは、企画参加ありがとうございました!これからも宜しくお願いします(^O^)

120807

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