※高校生佳主馬くん















「ねぇ、本当に観るの…?」

「当たり前じゃん。もしかして苗字、怖いの?」

「こ、怖くなんか、ないし!」

「あ、そう。それに夏だし、いいじゃんホラー」

「ううう…」


 何だかしてやられた気分だ。オススメの映画の話をしていたら、意外と池沢も話に加わってきて、ホラー映画の話をしだしたんだよね。何故かわたし以外の人はみんな観たことあるとか言って(かなり嘘っぽかったんだけど)わたしだけが池沢の家に連れてこられている。多分、わたしが池沢のこと好きなのをみんなで謀ったな…!誕生日だし、それはそれで嬉しいけど1人だぞ!?ホラーとか苦手ジャンルだし…!しかもいくら映画観るからってどうなの、年頃の男の子の家に上がるというのは…。うおおおおおおおお!


「百面相」

「は、」

「苗字の顔」

「う、るさい!」

「はい、此処僕の家」

「おお…」

「うわっ、あっつー。母さん達いないのかな」


 マンションの一部屋で、何か池沢っぽい気がした。…池沢っぽいって何だ?でも、池沢はひょろくてすらっとしてるから、マンションって言われると、あぁ。って感じ。


「そこのソファにでも適当に座ってて」

「は、はい」


 池沢はすぐキッチンだと思われる方へ姿を消してしまった。それにしても綺麗なリビング。多分お母さんが綺麗好きなんだな。突然の訪問なのにこうも片づけられているとは。流石池沢家母。会ったことないけど。所々に可愛らしい人形やおもちゃが置いてある。確か年の離れた妹がいるって言ってたな。


「こっち来て」

「リビングで観るんじゃないの?」

「今母さん達買い物行ってるみたいで、帰ってきてこんなのテレビで流してたら妹が泣くから」

「あぁ…ってそんなに怖いの!?」

「怖くないんじゃなかったっけ」

「ここ怖いなんて言ってないし?」

「ぶどうとりんごどっちがいい?」

「り、りんご…?」

「何で疑問系なんだよ、はい」

「ありがとう」


 意外と妹思いで、しかも気が利く。暑いからってアイスを出してくれた。池沢は残ったぶどうを食べるらしい。…池沢って結構凄いかもしれない。今の間にエアコンの電源を入れ、扇風機を回し、テーブルの上には麦茶が2つ、そしてポップコーンやポッキーが盛られたお皿。これは男子のやることじゃねぇぞ!?


「池沢のお母さんって厳しいの?」

「いや、別に?何で?」

「何となく」


 変なの。と切り捨てられたところで、映画が始まった。最初から何とも物騒…。


「ひっ、あ!あぶなっ」

「……」

「っうわぁぁぁぁ!」

「……」

「ばっ、……おわあ!ひっ」


*****


「…大丈夫?意識ある?」

「怖かったああああ」

「見栄なんか張らなきゃいいのに」

「うう、だって…」


 今更観ないとかそんなこと言えなかったもん!わたしの周りみんな観たって言うしさあ!この薄情者が!


「僕は誰かさんの所為で全然集中出来なかったよ」

「…ごめん」

「映画中も静かに出来ないなんて」

「…ごめん」


 でもさ、凄く怖かったんだもの。ホラーなんて久しぶりに観たから余計に。ほら、目の前の麦茶だって冷や汗たっぷりかいてるよ。


「…でもっ、手繋いで安心させてくれたって、良かったじゃんっ」


 何言ってんだ、わたし。出てくるな、涙。視界がぼやけて自分の足が滲む。泣く程怖けりゃ、やっぱり観なければ良かったのに。


「ごめん、誕生日なのに意地悪した」

「!?」


 不意にわたしの右手に池沢の左手が重なった。びっくりして池沢の方見たら、溜めてた涙が出てしまった。こらえてたのに、あーあ。


「知ってたの、誕生日」

「うん」

「何で」

「そりゃ、朝からハッピーバースデー歌ってたら気付くでしょ」

「違う、そうじゃなくて、手」

「…泣いてほしくないから」

「何で、何で?」

「わかんないよ」


 わかってたらこんな苦労しない。池沢は下を向いてそう言った。何だろう、この気持ち。凄くもやもやする。


「苗字、好きだ」

「嘘、」

「嘘じゃない」

「待って、いきなりそんな…」


 そんなの、キャパシティオーバーしちゃうよ。わたしは池沢のことが好きで、偶然誕生日に池沢の家に来たら、そこでわたしのこと好き、なんて。そんな都合の良い話、ある訳…


「苗字は気付いてなかったかもしれないけど、僕はずっと苗字のこと見てたんだからね。入学してから、ずっと」

「……」

「苗字は?苗字は僕のこと、嫌い?」

「…嫌いじゃない、好き」


 自分のことでいっぱいいっぱいで、でも池沢が告白してくれたのが凄く嬉しくて、わたしもそれに答えなきゃって、恥ずかしかったけど、好きって、言った。そしたら痛いくらいに池沢に抱きしめられてて。池沢ってこんなに力あるんだ。


「良かった。もしかして振られるんじゃないかって、僕…」

「そんな訳ない。わたしも、ずっと池沢のこと好きだった」

「過去形?」

「今はだいすき」


 今まで生きてきた17年で一番、素敵な誕生日だ。




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企画参加ありがとうございました!映画鑑賞中とのことでしたが、すみません、鑑賞前と鑑賞後の話になってしまいました(;Д;)勝手に付き合う以前の話にしてしまって申し訳ないです。考えてたらこんなことに…_(:3 」∠)_特に指定がなかったのですが、普通誕生日っていったら付き合ってる前提だろェ…とか書いた後に気付きました。益々すみません(土下座)気に入らなかったら返却可です\(^0^)/
台詞の言い回しや話の構成が好みと言って下さってありがとうございます!そんなこと言って下さる方がいるから、私はサイトを経営していけるのです…(だから何だ)そして、私への気遣いまで、ありがとうございます!お誕生日おめでとうございました、眠太さんもお体にお気を付けて夏をお過ごし下さい。


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