「お疲れ様でした苗字先輩!」
「今日も全部的に当たってました!」
「流石です!」
「あ、これ差し入れですどうぞ!」
俺は弓道部の部長である。何故だかよくわからないけど女の子にモテてしまっている。練習中に黄色い歓声が出ることなんてしょっちゅうだ。別に女の子に騒がれるのは悪い気はしないから割と嬉しいんだけど。
彼女たちを「ありがとう」の一言で片付け、さっさと下校した。
「名前!」
どきり、と心臓がはねた。それはこの声の主を知っているからだ。俺は今日もこの声を待っていた。
振り向くとそこには陣内がいた。思った通りだ。
「よお」
「ん。陣内も今帰り?」
「ああ」
陣内と俺の家は割と近く、最後の方まで一緒にいることができる。その後に何も会話が無いと肯定の意味で、一緒に帰れるのである。俺がどんな時間に帰ろうと、必ず陣内は現れる。そんな訳で最近はずっと陣内と帰っている。
こんなでも一応俺は女だ。好きな人くらいいる。一緒に帰れることで、俺は幸せなのだ。
「お前さ、」
「ん?」
「俺って言うのやめれば?」
「はぁ?何でだよ。お前はお前、俺は俺。関係なくね?」
「やめる気がねぇなら、別にいいけど」
「なんだよ、男の癖にうじうじすんな」
「じゃあやめろよ!」
「嫌だよ!」
「やめろ!」
「嫌だ!」
「……」
「……」
「…お前とは気が合わねえ。もういい」
「あ、陣内!」
そう言って足早に帰ってしまった。なんだよ急に変なこと言い出して。あいつってあんなに短気だったっけ?
*****
「はぁ…」
陣内はあの日を境に下校中に現れることは無かった。クラスも違うから一日中会わないなんてこともザラにある。そんなこんなで一週間とちよっと、過ぎてしまった。
俺が悪いとは思ってないし思わない。けど、下校中に陣内がいないのはとても寂しいことだった。俺はもうこんなにも陣内に依存していたらしい。陣内に謝るべきか謝らないべきか。そうしたらまた一緒に帰ってくれるかもしれない。それだけでいいから………
「名前、お客さん」
「え?」と答えるとそのクラスメートは教室のドアを指差した。「行ってくる」とその子にお礼を言ってからドアに出た。可愛い女の子だ。
「少し、いいですか?」
*****
「わたし、名前先輩が好きなんです」
きた。女の子に告白されるのもたまにある。こんな俺のどこがいいのかわからないけど。
「付き合ってもらえませんか?」
「…ごめん、その気持ちには答えられない」
「何でですか!?わたしが女だからですか!?」
癇癪起こされるのはあまり好きじゃない。こっちが悪いことしてる気分になるから。
「違うよ。異性しか好きになっちゃいけないだなんで誰が決めたの?好きになる人は誰だっていいんだ」
「じゃあ何で…?」
「俺、好きな人がいるんだ。ごめんね」
そう言うと彼女は豆鉄砲くらったみたいな顔をした。そういうことは考えてなかったらしい。俺に対してちょっと失礼じゃないかな。別にいいけど。
「男ですか?」
「まぁ、ね」
「誰ですか!?」
「いや、それは、ちょっと……」
「減るもんじゃないし教えて下さいよっ!」
そういうもんじゃないだろう。それに図々しいよ。君は教えてと言われた時にすぐ教えるのかっていう問題だ。
“キーンコーンカーンコーン”
「あっチャイムだ!じゃあね!」
「これ予鈴ですからまだ話せますって!名前先輩っ!」
ありがとうチャイム。ありがとう俺の足。そこそこ足が速くて良かった。あんなにめんどくさいのは初めてかも…。
*****
どうする!?俺!
今陣内のクラスの前で立ち尽くしている。心の準備が出来てないのに来た自分が馬鹿だった。終いには「誰か呼ぶ?」と聞かれる始末。同学なのに自分で呼べないとか不自然極まりない。そのうち陣内は出てきて、不機嫌そうに「何」と言った。カチコチな俺。
「この間は、ごめん」
「別にいいよ」
「でもいきなり俺が俺って言うのやめたら他のみんなが驚くと思うし、」
「俺は、もう少し女らしくすればって言いたかったの」
「そう…心がけるよ」
「……」
「…っいひゃい!」
「お前が辛気くさい顔してると調子狂うんだよ」
「ほっへいひゃいっへ!」
「何言ってるかわかんねー」
陣内は俺の両頬を引っ張った。さっきまでふてくされた顔をしていた彼に笑顔が戻っていた。やっぱりコイツには笑顔が似合う。
「何笑ってんだよ」
「ひひふー!」
「何言ってるかわかんねーよ」
「っいひゃい!」
自惚れてもいいですか
陣内、やっぱりあんたのこと好きだ。
□□□□
消化遅すぎ申し訳ないですっ_ノ乙_(、ン、)_
一応年内にできました今日は大晦日でギリギリですが(;´・ω・`)
黒様に捧げます。
101231