「トリケラトプス」

「れんげ姉ちゃんそれポケモンじゃないよ」

「だってポケモンしりとりだなんて言ってないもんわたし」

「みんな外見て!スッゴい綺麗!」

「わあ〜!」

「はい、到着」

「「「わーい!」」」


ちびっ子3人は揃って車から飛び出して(真緒は降りる寸前に真ん中の座席に戻っていた)、別の車で来ていた他の大人組のところへ一目散。そして夏希姉、健二さんが降りた後、わたしもゆっくりと車から降りた。人混みって訳でもないけどそれなりに人はいる。もっといそうな気がしてたんだけど。この時期にそんなに人がいないなんてきっと此処は穴場なんだろう。何から何まで完璧。流石理一さん。


「佳主馬、」


降りなきゃ、とか降りなよとかそういった言葉を飲み込んで声をかけると、案外素直に降りてきて、わたしの後ろについた。
なにこれ犬みたい。そう思ったから佳主馬の頭をよしよしした。下向きになった頭と長ったらしい前髪の所為でどんな顔をしてるのかわからない。そういえばハヤテはお留守番だ。


「理一さん、パラソルはある?」

「はいこれ。2人で適当なところにさしといて」

「はーい」


陣内家のパラソルを受け取ると佳主馬の腕を掴んで歩き出した。なんなのかなあ、この子。うんともすんとも言わないし、されるがままだし…
何気にこの大きなパラソルは重いから(砂浜って暑いから、無駄な労力使いたくなくなる)ずるずると引きずることにした。わたし達の後ろには2人分の足跡と細い線が並んでいる。


「この辺でいいかな。はい佳主馬、宜しく」


何も言わずにパラソルを受け取り、無駄の無い動きで開いて砂浜に挿した佳主馬。思ったけど、よくこんな巨大な物が不安定な中に立つなあ。普通安定させるものとかないのかな?まあ理一さんに渡されなかったから…うーん
新しく出来た影の中に座ると其処はまだ熱を持っていた。「あっつー」と声を漏らしたのを確認するとわたしの隣に佳主馬が座った。表情は歪まなかったけど額に汗が滲んでいる。暑いんだろう。

でっかい鞄の中から無造作につっこんだ日焼け止めを出す。日がじりじりとわたし達を焦がすのを黙ってみてるったってそうはいかないもの。わたしは、焼けたくない。


「夏希姉ビキニ…!」

「そうなの。どう?似合ってる?」


似合ってるも何もないよこれは。白い肌に赤いビキニ。そして軽く結った髪… 輝いてるよ、夏希姉輝いてる。これはナンパされちゃうフラグたってるよー。海にチャラ男はつきものだからね。夏希姉巨乳って訳じゃないけど美乳だからスッゴい綺麗だし(何処見てるのっていうツッコミは無しね。女の子同士だってそういうところに目がいくの当たり前なんだから)、お腹だって程良く引き締まってるし、手足は細いし… わたしとは全然違うなあ。あんな格好絶対出来ない。ていうか着替えるの早、…


「夏希姉、似合ってるから。健二さんから離れちゃ駄目だよ」

「?、うん、わかった」

「健二さん、夏希姉を頼んだよ」

「勿論です!(夏希先輩可愛すぎて直視出来ない…)」


健二さん既に顔赤いけど大丈夫かな、ちゃんと夏希姉守ってくれるかな。まあ彼氏なんだし、やるときはやる男だとわたしは信じてる!去年のラブマ事件然り。


「れんげは水着着ないの?」

「うん。わたし持ってないし」

「買いにいけば良かったのに」

「出発30分前に言われて買える訳ないでしょ」

「さっきはそんなこと言ってなかったじゃん」

「だって持ってるの?なんて聞かれなかったしぃ」

「その語尾何、ウザい」

「ウザいとか言わないでよ全く。ちょっと遊んだだけじゃんか。とりあえず、今水着は持ってないんです。諦めて」

「じゃあ僕が買ってあげ」

「全力で断らせていただきます」

「チッ」


うっわー舌打ちされたし。彼女の水着を見ることがそんなに大事か!それに佳主馬に水着買わせるだなんてそんな恐ろしいこと出来る訳がない(色んな意味で)。何のためにショーパンで来たと思ってるの、わたしも色々と考えているのよ。
ムラがないように日焼け止めを塗りたくった後、わたしも髪を軽く結って(こういう時、髪の毛って邪魔で仕方ないよね)キラキラ輝く海へと駆け出した。……筈だったのだが。


「なに?」

「僕も行く」


がっしりと腕を掴まれてわたしの動きを止めた。世話のかかる人だなあ。


110430



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