それからと言うもの、一段落ついたわたし達の問題を置いて、佳主馬は名古屋へ帰った。わたしも無事高校受験を終え、春からは第一希望の高校へと進むことが決まっている。佳主馬も行きたいところに受かったらしい。そしてわたしは今日、3年間通った中学校にさよならを告げる。
「今までありがとうね」
「れんげのこと、絶対忘れないから、だからわたしのことも忘れないでねええ!」
「何辛気臭い雰囲気作ってんの」
「痛っ!叩くなんてひどいー!」
「れんげ、わたしはさよならなんて言わないよ、何処へ行ったって友達でしょ?」
「うん」
「応援してるから、辛くなったらわたしらのとこに帰っておいで」
「ありがとね、みんな大好き!」
そう言って、3人いっぺんに抱き締めた。
「あんたも泣いてんじゃんかー!」
「うっさい、」
「まあまあ2人とも。れんげ、わたし達みんな同じ気持ちだからね。高校違っても、たまには顔見せてよ?」
「うん、勿論!」
やっぱり、この人達と一緒で良かった。この3人と一緒に中学校生活を過ごせて良かった。4月からこの騒がしいメンバーと毎日顔を合わすこともなくなるんだと思うと涙が止まらない。それでもわたしは前に進むんだ。勿論、彼女達も。将来、ちゃんと顔向けできるように、頑張らなくちゃ。
「さーて、プリでも撮りに行きますかー!」
「えっ今から?」
「こんなに目腫れてるのに?」
「大丈夫、プリなら詐欺れるからー!それにれんげ長いことわたし達に付き合ってないんだから来なさいよー?」
「はいはい」
「よーし!じゃあ行くぞー!」
「お腹すいた、ポテト食べたい」
「サーティーワンがいいなあ」
「みんなの食欲…揺るがないな」
「「あははっ」」
*****
オレンジに染まった坂道を歩く。手にあるプリクラの中ではみんな笑顔で、「大好き!」の文字が輝いてる。あーやっぱりいいなあ。こんなに仲良くできる友達、高校でもできるかな。もう明日からあの学校に行くことはないんだ。少し、足取りが重くなる。横を本数の少ないバスが走っていった。
「れんげ!」
「…佳主馬」
また、制服だ。手には卒業証書が握られている。後ろにいるのは聖美さんと瞳美ちゃん。今回はみんなで来たんだね。お父さんはきっと、仕事で忙しいのだろう。「わたし達は先に行ってるわね、佳主馬」そう声を掛けて聖美さんは瞳美ちゃんを連れて上がっていった。「にーにたちはー?」「後で来るから大丈夫」「ふうん」瞳美ちゃん、もうそんなに喋れるようになったのね。
「佳主馬も今日、卒業式だった?」
「うん」
「ちゃんとお別れしてきた?」
「うん」
「お世話になった校舎は?教室は?」
「もういいから、そういうの」
そしたら佳主馬がぐっと近づいてきて、唇がくっついた。触れるだけの、でも長いキス。4月になったらわたし達は高校生で、佳主馬の背はもっと大きくなるだろう。お父さんがスラッとしてるから、佳主馬もきっとそれに似る筈。そしたら、わたしは背伸びしてキスをすることになるんだろう。今こうして背伸びもせずにキスができるのは、あともう少しで終わってしまう。永遠などないんだ。
「どうして泣いてるの」
「佳主馬は、わたしを置いていったりしないよね?」
「当たり前じゃん。もうずっと一緒なんだから」
「うん」
わたしが養子として此処に来たのなら、陣内の闇であるなら、わたしを導いてくれる貴方にずっとついて行こう。わたしの光は佳主馬、ただ1人だけだから。
130306 完結