「佳主馬、れんげちゃんと一緒におつかいに行ってきてくれない?」

「……なんで僕が。」

「私今、瞳美の面倒見てていけないから…ね、お願い行ってくれるでしょ?」

「聖美さん、私、行きます。必ず私が佳主馬を連れ出します!」

「そう?じゃれんげちゃん、任せたわ。これリストね。残ったお金でアイスでも買ってきていいわよ」

買うものリストが書かれた紙を私に渡して聖美さんは帰って行った。因みに、瞳美ちゃんというのは去年生まれた佳主馬の妹ちゃん。すっごい可愛くて、もう何度も抱っこさせてもらった。瞳が美しいと書いて[まなみ]って読むんだって。可愛い名前だよなぁ...

「じゃあ佳主馬いこーぜー」

「女の子がそんな言葉使っちゃ駄目。」

「行きましょう、佳主馬さん。」

「れんげが言うと気持ち悪い」

なんだよ、佳主馬が言葉使い直せっていうから直してプラス営業スマイルまでつけてやったってのに。何をさせたいのあなたは。さっさと行こうとしない君が一番悪いでしょ!

「ほら佳主馬、行こうってば」

「遠いからめんどくさい」

「でももう行くって言っちゃったんだから行くしかないでしょ、ほら早く」

「僕は行くなんて言ってない」

「………ああそう、もういいよ。健二さんと2人で行ってくるから。健二さんと2人でアイス選んで食べながら帰ってくるから。よーし健二さん探しに行こー」

「やっぱ行く。」

言葉のすぐあとにパソコンをシャットダウンした音が聞こえた。本当に来てくれるらしい。うんでも確かに陣内家からスーパーまでって以外と遠い。だってバス乗らなきゃいけないんだもん。健二さん名前使っちゃってごめんね。



*****



「ねえ佳主馬、以外と買うもの多いよ。とりあえず玉ねぎ10個持ってきて。」

「とりあえずって何さ」

「とりあえずはとりあえずだよ。それに1回に沢山言っても覚えられないし、持って来られないでしょ。はい、行ってくる」

めんどくさがりながらも一応協力して手伝ってくれる。佳主馬は私の要求を渋々飲み込んで玉ねぎコーナーのところで品定めをしている。なんか凄い様になってるんだけど。いつも聖美さんの買い物に連れてかれて荷物持ちになってんのかな、有り得る。

「えっと、次はトマト7個」

玉ねぎの時点で、全部持たせてくるのは凄く大変なことがわかったのでカートを持っている私も一緒に行くことにした。新婚になったらこんなふうに2人で買い物に来たりするのかな、って想像する私はすでに佳主馬病の末期だと思う。もう手の施しようがないよ、きっと。それになにより、病気を治そうという気持ちがないからね。
かごは丸でいっぱいになった。寧ろ球だ。トマトも玉ねぎも両方丸い。丸で埋め尽くされたかご、丸丸丸まる丸々まるまるまる・・・・・・

「どうしたの?」

「え?」

「今ボーっとしてた」

「あ、別になんともないよ。ちょっと考え事してただけ」

「ふうん。で、次は?」

「……鶏肉モモ、ムネ」

「お肉コーナーか」

カートの端を掴んで引っ張り出した。私はそれに合わせて歩く。なにこれ超歩きやすい。ていうか楽。押す力があんまいらないからか。

「あのさ、グラム数書いてないんだけど」

「僕に言われても困るよ」

「どうしよう…適当に買っていいのかな」

「電話すれば?」

「ああ、そっか」

トゥルルルという機械音が鳴り響く。今の時代はすぐに電話できたりして凄く便利な世の中だと思う。でもそれに伴って大事なものも失われてきてると思うんだよね、とかって言ってみる。でも実際たまに思ったりするんだ。

『はい、もしもし』

「えっとれんげですけど。お肉って何グラム買えば……?」

『ちょっと待って。万里子おばさーん!お肉どれくらいー??』

「(直美さんだったか。)」

『あーもしもし?』

「はい」

『700と700くらいだって そいじゃあね』

ツー、ツー、ツー…

「なんだって?」

「700くらいだって、両方。ていうか凄く一方的に切られたんだけど。」

「誰出たの?」

「直美さん」

「もうそれはしょうがなくない?」

そしてそこでこの話題の話を切るかのように佳主馬はお肉を選んでいる。

「ねえ、」

「なに?」

「帰ったられんげの腿触っていい?」

「誰が良いなんて言うと思ってるの」

「じゃあ胸食べさせて」

「OZ勝手に退会させるよ」

「ごめんなさい」



*****



「お会計4773円です」

聖美さんからもらった5000円札を出して置く。ああああ私のアイスのお金さらば……!本当はバス停までの帰り道にあるアイスクリームのお店に寄って食べたかったのに…!ひさしぶりだからダブルとか頼んじゃおーうって思ってたのになーあ227円じゃ買えないじゃん…あーあ

右の手のひらに置かれた白いレシートと7枚の小銭。それを見つめてふう、とため息を吐きポケットに突っ込んだ。1つずつ持っている緑のビニール袋に入れられた重い奴らがただただ憎たらしいだけな帰り道と化した。

「あの時考えてたことってなに?」

佳主馬の言葉によってそれまで続いていた沈黙は破られた。もうずっと近くにいるから沈黙が続くと変な空気になるとかじゃいからいいんだけど。そういうところは嬉しいかなって思う。

「あの時って?」

「トマトの前にいた時」

「………言わなきゃ駄目?」

「できれば聞きたい」

駄目とわざと言わないで、強制はしていないようにみせかけて結局は吐かせるという技、わたしは何度も引っかかっている。でも別にいいかなーって、最近は思うんだよ。何でだろう?

「……佳主馬と、その、・・・・・・結婚とかしたら、今日みたいに買い物に来たりするのかなって、考えてた」

「……」

あれ、佳主馬さん何か答えてくれないんですか。酷いなあ、こっちは勇気搾り出して言ったというのに。なんで黙るの。佳主馬の顔を確認しようと思ったら俯き気味で彼の長い前髪が邪魔をしてそれを許さなかった。けどわたしは見た。黒い髪の隙間からちらりと見えた真っ赤な耳がそこにあったことを。

「もしかして、照れてる?」

「うるさいっ」

照れてるんですね。久しぶりに見た余裕の無い佳主馬はやけに可愛く見えた。それと同時に愛しさが込み上げてきて、とっても抱き締めたくなったけど、今は荷物を持っているから帰ったら存分に抱きつこうって決めた。

すると佳主馬はごく自然に私が寄ろうと思っていた店に入った。火照った顔を冷やそうと思って入ったとしても店に入るんだから何か買わなければならない。残金300円きってるから無理だって、買えないよ佳主馬!

「アイス、食べるんじゃないの?」

オドオドと心配そうな視線を佳主馬に送っていたら質問された。そりゃあ食べたいさ!でもお金ないんだってば。

「お金、ないから無理だよ。食べたいけど」

「じゃあいいから選んで」

ご注文は何に致しますか?と笑顔で尋ねてくるカウンター越しの店員さん。本当に頼んじゃっていいのかな、と思いながらもじっくりとアイスを眺めた後、抹茶アイスとクッキーが入ったバニラアイスのダブルを頼んだ。

「佳主馬は食べないの?」

私の質問に動作で返事をした。コクリと頷いたから食べないらしい。

はいどうぞと渡されたアイスを私は受け取り、佳主馬は言われた値段の金額を置いてお店から出た。
因みに、私のポケットには未だ227円がはいっている。いつの間に佳主馬はへそくりを持っていたんだ羨ましいな。

「アイスありがとう」

「言っとくけどヘソクリじゃないよ」

「、心読まないでよ」

「口からだだ漏れだったけど」

「……ヘソクリじゃないならなんなの?」

「OMCの時の賞金とか」

「佳主馬金持ちだったんだ…」

そう言ったきり佳主馬は喋らなくなった。帰りのバスの中で最後の一口を佳主馬に捕られた。ちょっとショックだった。勿論たまに一口あげたりして、抹茶もクッキーバニラの味も佳主馬は知ってるんだけど。
食べ終わった後、所構わずキスしてくる佳主馬には参った。いくら私たちが最後の乗客だったからって運転手さんに見られちゃうじゃんか!公共の場所でそんなことしちゃいけません。



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