「かずま、」
「浮かない顔」
「だって」
そこまで言い掛けて、言葉を飲み込んだ。だって、その先に続く言葉は、わたしの我が儘でしかないから。わたし達のことを考えて、上田家にも話を通してくれたんだもの。それなのに結婚はしたいけど、陣内から離れたくないだなんて都合良すぎるよね。
「はあ…」
「盛大な溜め息ねえ」
「理香さん!お仕事は?」
「お昼よ、お昼」
「あ、そっか」
理香さんはいつもお昼ご飯食べる為に一度帰ってくるんだった。お弁当持って行けばいいのに、なんて思うけど、朝は忙しいの!と言われるだけなので改めて言ったりはしない。
「それで?どうしたの?溜め息なんかれんげには似合わないよ?」
「上田家の養子のことで、」
「ああその話!あたしも気になってねー、役場で調べてきたのよ!ちゃんと!ちょっと待ってて」
そういうと鞄から何やら紙を取り出した。メモとっておいたのかな?
「えーと、難しいことは省略するわね。基本的に血の繋がった従兄弟同士なら結婚できる。でも叔母と甥っていうのは従兄弟よりも血縁的に近いから駄目なの。ところがあんたたち!」
「はいっ!?」
急に力んで言う理香さんの言葉に驚いた。だって箸を振って熱弁し始めるんだもん。佳主馬なんて目を丸くして声すら出ていない。
「もともとれんげは養子、つまり佳主馬とれんげは血は繋がってない。てことはそのまま結婚できるのよ〜良かったわね」
「え、ほんとう?」
「ほんとよほんと」
「どうせお前は陣内から出たくないって悩んでたんだろ?」
「侘助さん!?いつから聞いて…」
「ん?さっき」
「じゃあれんげは養子に出なくていいってことで。万里子さんにはあたしから言っておくから」
「ありがとう!!」
すれ違い際、侘助さんに「分かるよ、俺も同じだから」と言われて、思わず振り返ってもその背中は何も語らなかったけれど、温かさを感じた。侘助さんとは経緯がどうであれ、養子という立場は同じだもの。陣内に対する思い入れも人一倍なんじゃないかな。それだけ侘助さんも陣内が好きで、陣内から出たくないって、そういうことだよね。
「良かったね、れんげ」
「何よ、他人事みたいに」
「僕は何があってもれんげとは結婚するから。それだけだよ」
「っ、なんでそういう風にさらっと言うかなあ!」
「顔、真っ赤だけど」
「言わなくていい!」
130306