「お嬢さん、お嬢さん!」

「…は、はい」

「終点ですよ、上田です。この列車、車庫に入るんで折り返しはできません」

「あっすみません!ありがとうございます、すぐに降ります」


 また、子供の頃の夢をみたみたいだ。まさか電車で寝てみるとは。
 駄目だ、心がいっぱいいっぱいで、佳主馬に会ってもポーカーフェイスでいれる自信ない。でも佳主馬には会いたい。ずっと会いたかった、この半年間。そう思って、新幹線の改札へと急いだ。


「れんげ!」

「…佳主馬っ!」


 丁度改札から出てきたばかりの佳主馬がそこにいた。いつもは聖美さんと瞳美ちゃんと一緒なのに、今日は1人みたい。しかも制服を着ている。この時間帯ってことは、学校終わってすぐに飛び乗ってきたのかもしれない。
 ああ、だめだ、涙が出そうになる。ただ佳主馬の姿を見ただけなのに。ポーカーフェイス、ポーカーフェイス。


「どうしたの?急に」

「冬休みになったから。れんげが心配で、何かあったんじゃないかって」

「えっ、なんで?」

「この前、OZで会ったとき、おかしかったでしょ」


 何でもお見通しなんだな、佳主馬には。そう思ったら折角我慢していたのに、自然と涙が出てきてしまった。


「やっぱり」

「ごめん、なさい」

「何で謝るの」

「迷惑、だよね。わたし、重いよね」

「何でそんなことになってるの。全部話して」


“トゥルルル トゥルルル”


「こんな時に誰」

「侘助さん。…もしもし?わびすけさ、」

『連絡くらいしろ!心配するだろ!』

「ごめ、なさい…」

『何で泣いてんだ…あ、あのガキ何泣かしてんだよ。説教は後でするから早く帰ってこい』


 言葉は悪いけど、声色からも心配してくれたことが分かる侘助さんにも安心してしまって、またどっと涙が出た。


「何言われたの」

「説教は後でするから早く帰ってこいって」

「じゃあとりあえず電車に乗ろう。遅くなると本当にキレられる気がする」


 電車の中で、全部話した。友達に佳主馬は親戚として優しいんじゃないかって言われたこと。昔の夢をみたこと。佳主馬が何処の高校へ行くのかも知らないこと。全部、全部。そうしたら夢の中の佳主馬みたいに頭撫でながら全部聞いてくれた。


「れんげのこと親戚として好きだって?馬鹿じゃないの、勿論恋人として好きだよ。じゃなきゃ結婚とか言わないし」

「うん」

「僕は地元の高校行くよ。家から近いとこ。学校じゃ僕はあんまり喋らないから周りの評判とか知らない。そもそも興味あるのはれんげとOMCくらいだし」

「うん」

「れんげは何処の高校行くの?」

「えっと、ちょっと遠いけど、パソコン強い大学入りやすいとこ」

「なんで?」

「…佳主馬の手伝いできたらなって」

「…なんだ、同じじゃん。れんげが僕のこと心配するからもしかしてすれ違ってるんじゃないかって思ってた」

「そんなわけ…!」

「ない、ね」


 繋がれた右手は電車の暖房で温まって少しじとりとしているけれど、嬉しくて。佳主馬が隣にいてくれることが何より嬉しくて。


「何も心配しなくていいよ、れんげ」

「うん。…ねえ佳主馬、」

「なに?」

「今わたし凄く幸せ」

「僕も」


 急に恋人繋ぎに変わった手。どうせ最初から乗ってる人は少ないのだから何をしたっていいのだ。誰も見てない、わたし達だけの秘密。…まあ、もしかしたらどれだけ人がいても恋人繋ぎする可能性は十分にあるのだが。その場合わたしが只の茹でダコになっちゃう。

 電車を降りて、バスに乗って。乗客はわたし達だけになったバスを降りて、いつもの坂をのぼる。そうして、今やっと気付いた。


「帰り道デートみたい…」

「帰り道デート?」

「うん、わたしも佳主馬も制服だから。ずっと憧れてたんだよね」


 遠距離なんかに縁の無い友達は、当たり前のように帰り道デートで彼氏と一緒に帰って行く。わたし達には絶対できないって思ってたから、ずっとやってみたかったんだ。


「空も綺麗だし」

「本当だ、…あれ冬の大三角形じゃない?」

「どれどれ?」

「あれ。あの星とあの星とあの星。一番輝いてるやつ」

「あれか」


 冬の空気は冷たくて痛いけれど、その痛さがわたし達に綺麗な夜空を見せてくれる。そう思えば嫌いでもない。昔は冬は嫌いだった。今はそんなことない。佳主馬に会えるから。


「遅い…!」

「ごめんなさい」

「こんな遅い時間に女外に連れ出して、ガキがそんなことやって良い訳ないだろ!」

「ガキじゃない、池沢佳主馬」

「…とりあえず、聖美さんに連絡しろ」


 渋々、といった様子で佳主馬は聖美さんに電話をかけた。こっちに来ることは言ってあったらしく、そんなに怒ってなかったけど。代わりに侘助さんが延々と怒鳴っていた。こんなに怒る侘助さんは珍しい。


「もう二度とこんなことするな、分かったらガキは寝ろ」

「ガキじゃない、池沢佳主馬」

「ガキはガキだ」


 睨みを利かす佳主馬に呆れた様子で侘助さんは部屋へ戻って行った。食卓には冷めた2人分のごはんが乗っている。


「怒られちゃったね」

「……」

「ああもう、佳主馬も機嫌直して。ご飯食べて、今日はもう寝よう?」

「…うん」


 すっかり遅い時間になってしまった夕食。まさか侘助さんが佳主馬の分まで作ってくれてるなんて思わなかった。流石は大人だな、後でお礼言わなきゃ。

 隣にいる佳主馬のおかげで、今日はぐっすり眠れる気がする。




130120


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