「はい、ご挨拶をし」

「れんげ、武野れんげです!」


 元気よく挨拶をした「わたし」の前には当然佳主馬が。しかし佳主馬は口をきかず何となく不機嫌なご様子。きっとOMCを中断させられたからだと思う。ってちっちゃい佳主馬可愛いな!今も時々可愛いときあるけど何だろうこの幼少期の殺傷能力…!


「……」

「佳主馬、挨拶をなさい」

「…どうも」

「ここでのことは佳主馬に教えてもらうんだよ、いい?」

「はい!さかえおばあちゃん」


 佳主馬、あからさまに嫌な顔してる…。めんどくさい仕事を押し付けられた、とでも思っているんだろう。今も昔もそう変わってないな、佳主馬は。

 栄おばあちゃんが納戸を去って、少し不安そうな顔をした「わたし」は佳主馬の少し後ろに座った。引き戸を閉めてしまえば暗くなってしまう、納戸に差し入る光を独り占めしていることに気付いていない。


「それ、なに?」

「…OZ」

「おずって?」

「れんげもやる?」

「うん!」


 即答。まあ、あんな風に目の前でキーボード叩かれて、画面では目まぐるしくアバターが動いて、興味を示さない訳がない。今分かったけれど、佳主馬って最初からわたしのこと呼び捨てだったんだなあ。
 さくさくと新規登録画面に持って行き、個人情報を「わたし」から聞き出している。パソコンを物珍しく見ている少女がキーボードを叩けると判断することはなかったようだ。勿論、正しいけれど。


「れんげの分身作るんだけど、」

「わたしの分身…!?」

「うん。どんなのがいい?」

「うーんとねえ…」


 画面を指差しあれにしたりこれにしたり。佳主馬はその度仮アバターを着せ替えなければならなかったが不思議と煩わしい顔はしていなかった。


「よし!」

「これでいい?」

「うん」

「じゃあ最後にこれね」

「わあ!かずまくんとおんなじ耳だ!」


 目を爛々と輝かせる「わたし」を見て佳主馬は完了ボタンを押し、わたしのアバターを作った。モデルは佳主馬と同じ白ウサギ。佳主馬と同じウサギの耳。ピンクのワンピースを着たその子が生まれた。


「かずまくん、ありがとう!」

「佳主馬でいいよ」

「かずま!」

「うん」


 どんなに嫌な顔をしたって、佳主馬は一度だって栄おばあちゃんの言いつけを破るなんてことはしなかった。少なくとも、わたしが知っている間では。わたしが覚えていない小さい頃の佳主馬もそうなんだ。お世話係という名を受けてまずわたしを懐かせたもの。




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