───陣内家で誰か遊んでる。誰だろう?
広い庭で、ひとりぼっちで。でも、とても楽しそう。茶色い地面に拾ってきただろう木の棒で落書きをしている。かなり長い時間描いているのか、大きな絵になってきている。
「こんにちは」
「あっ、そこ踏んじゃだめ!」
「わるいねえ。これでいいかい?」
「うん。こんにちは!」
「はいこんにちは」
栄おばあちゃんが中から出てきた。けど、どうして栄おばあちゃんがいるの?この知らない女の子は誰?
「おばあちゃん!」
「……」
「おばあさんは、じんのうちさん?」
「おばあちゃん、聞こえてないの…?」
「そうだよ、わたしは陣内栄だよ」
「わたしは武野れんげっていうの!」
わたしの声はおばあちゃんに届かず、この子にも届かない。まるで、わたしがいないみたいに展開される会話。わたしだってこんなに近くにいるのに…。
「はい!これ、お母さんがここで遊んでたらじんのうちさんに会うから、そしたらこのてがみを渡しなさいって」
───嫌な予感がする。
「そう…今読んでもいい?」
「いいよ!」
また、女の子はガリガリと地面に絵を描き始めた。何の絵かは多分、本人にしかわからないような。でも、わたしにはわかってしまった。
「お母さんはどうしたの?」
「お母さんは仕事でハワイに行くって言ってた!」
「…じゃあお母さんが帰ってくるまでこの家にいるんだよ、今日かられんげはうちの子だよ」
「うんっ!」
これは悪い夢だ。何も知らないかつての「わたし」は目を輝かせて頷くのだった。
121112