「もうこんなに時間経っちゃったのか…」


 自室に掛かっているカレンダーを見ながら呟く。8月31日。佳主馬が家に帰る日。明日からは学校だけど、佳主馬は毎年粘ってギリギリまで此処にいてくれる。だからもう他のちびっ子たちはとっくに帰ってしまった。勿論、夏希姉と健二さんも。
 勿論、宿題は全部終わったし、(2人で勉強タイム作ってやった。ちょっと隣を気にしながら、ね)充実した夏休みだった。のに、やっぱり寂しいんだよなぁ、佳主馬が帰ってしまうのは。夏休みの前の生活に戻るだけなのに。


「れんげちゃんー?お見送り行くよー」

「はーい今行く!」


 近くの鞄を無造作に掴んで理一さんの声の方へ走った。


*****


「じゃあね、れんげちゃん。今年は瞳美の世話もしてくれてありがとう」

「いえ、次も抱っこさせて下さいね?」

「来年はもっと大きくなってるわよねー瞳美?」


 聖美さんがそう問えば、瞳美ちゃんはきゃっきゃと笑った。駅へ向かう車の中、わたし達は一度も話さなかった。手はぎゅっと繋いでいたけれど。


「じゃあね、佳主馬。また来年」

───間もなく発車致します。


 乗車を促す放送が流れた。口を開けた扉の前、わたし達はお別れを言っている。またすぐOZで会えるのに、離れてしまうのがこんなにも悲しい。その時、
 佳主馬は向き合っているわたしの手を握り、自分の方へと引き寄せ、そしてキスをした。触れるだけのキス。だけど、その時間はとっても長かったんじゃないか、と思う。無論そんなことはなくて、発車するまでの時間だから短い筈なのだけれど。聖美さんや瞳美ちゃん、理一さんに見られてるという羞恥から、そんな風に錯覚してしまったのかもしれない。あああ、恥ずかしい。大人の前で、そんな…


「れんげ顔真っ赤」

「誰の所為で!」

「僕、かな。じゃあね」


 佳主馬と聖美さん瞳美ちゃんが新幹線に乗り込んですぐ、扉が閉まって発車してしまった。佳主馬の姿はとうに見えない。
 嬉しいような、悲しいような、苦しいような、幸せのような、なんとも言えない感情が、胸の辺りに漂っていた。


「若いっていいな。青春だね」

「馬鹿にしてる?」

「してないしてない」


 理一さんは結婚しないのかな。身内のわたしが言うのも何だけど、かっこいいと思うんだけどな理一さん。何で恋愛しないんだろ?昔を忘れられないとか…?って何詮索してんの、子供のくせに生意気なことしちゃいけません。


「あー佳主馬行っちゃったな」

「寂しい?」

「そりゃ勿論」


 だって今まで毎日ずーっとイチャラブできたのにできなくなっちゃうんだよ?顔すら見れないんだよ?そりゃ寂しくもなるでしょうよ。


「理一さん、」

「ん?」

「お見送り連れてきてくれてありがとう」


 隣に座るおじさんは、やっぱり佳主馬とは違うかっこよさが滲み出ていた。




120703


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