れんげのことなら何でも知ってる。これは僕の自負心とかじゃない。事実だ。
今だって、れんげは水の中できらきらと泳ぐ赤と黒の金魚達を羨ましそうに見ているけど、絶対に金魚すくいはやらない。次の日になったら死んじゃうのが悲しいんだって。逆に林檎飴はいつも買っている。僕に言わせれば、あんなのまわりが堅い只の林檎なんだけど。
「あっ佳主馬!あれ!」
「どれ?」
「射的!やって?」
なにそのおねだり。やるしかないじゃん。いつもと違って二割り増し位可愛いれんげに(絶対に言ってやらないけど)言われたら、やるしかない。まぁ、射的そんなに得意じゃないけど。
「何欲しいの?」
「えー…どれでもいいや」
「それ困るんだけど」
「んー、じゃああれ」
「おじさん、はい」
「はい、丁度ね。ほれ」
おじさんから射的銃をもらって、構える。狙いは写真立て。ってこれ、当たったらガラス割れないかな、危ないよなー…でもまあ、やるか。
「いっけぇーキングー!」
「キングって、呼ぶなっ!」
「お!当たった!一発だよ!すっご!」
「お兄ちゃんなかなかやるね〜はい景品」
「…ありがとうございました。れんげ、はい」
「ありがとう!」
「こんなの欲しかったの?」
「うん。今日の写真でも撮って飾ろうかと思って」
れんげのくせに、たまには良いこと言うじゃん。多分部屋にでも飾るんだろうな。僕はそんな風に家に飾ったりしない。母さんが勝手に2人のちっちゃい頃の写真飾ってるのは除いて。家のパソコンの壁紙はれんげの写真だけど。
「あっ!か、佳主馬!」
「なに」
「理一さん達がいない」
「僕といるのに他の男の名前出すなんて…」
「ちょっ、佳主馬!?ききき緊急事態だから!」
あーもうれんげったらバカだなあ。そんなところも可愛いんだけど。
「理一さんに言って別行動にさせてもらっただけ。いいでしょ?」
「流石佳主馬!」
そう言って、僕の左手をとって指を絡めてきた。あー、何してんだ僕。本当は僕から手繋がなきゃいけないのに。でもまあいっか。れんげが嬉しそうだから。
その時、
──ドーン、ドーン
花火が打ちあがった。
「綺麗だねー」
「今日のれんげのが綺麗だよ」
我ながらクサい台詞だとは思う。だけど、本当にそう思うんだ。だから僕も気付かないうちに、さらっと口から出ていたんだ。
「何言ってんの、ばかずま」
「……」
口調からして、恥ずかしさを隠したつもりの言葉だ。所謂照れ隠しって奴。口ではこんなこと言って、本当は嬉しいの、バレバレだって気付かないのかな。
「来年もまた、見にこようね」
「うん」
また、笑った。いつもと違う服装で、いつもと違う髪型で、いつもと違う雰囲気を纏ってる上にきらきらした笑顔なんて心臓に悪い。ちょっと斜め下を見ながら答えてしまった。
「じゃあ、みんなのとこ戻ろうか」
もしもし?うん、合流したいから。わかった、今行く。
理一さんに電話をかけて目的の場所に歩き出した。花火も全部打ち上がったし、そろそろみんな帰る頃だろう。人混みに溢れた道をはぐれないように手を繋ぐ。
「理一さん!写真撮って〜」
「いいよ」
れんげは理一さんにスマホを渡して、さっき言っていた通り、僕たちは最後にツーショット写真を撮ってもらった。帰ったらパソコンに入れて印刷するんだろう。僕もデータ貰わなきゃ。
「佳主馬無愛想ー!もうちょっと笑ってよ」
「れんげが僕の分まで笑ってるからいいの」
「いくない!」
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