「そういえばれんげ、宿題やったの?」
「え……」
「……」
「あ─────!」
「うるさ…」
「忘れてた忘れてた忘れてたどうしよう!」
「毎回懲りずによくやるよね」
「うう、」
佳主馬がいる休みが楽しすぎて宿題の存在を忘れちゃうだなんて口が裂けても言えない。絶対言えない。あ、でも、そういう佳主馬も…
「佳主馬もやってないよね?」
「もう九割方終わってるけど」
「えっ何で、佳主馬が宿題やってるとこ見てないよこの夏!」
「僕はれんげと違って効率が良いから」
くそう、人を馬鹿にしよって。佳主馬もまだやってなければ一緒に宿題出来たのに!勉強タイムになったのに!自分だけ早くに片付けちゃってずるい!わたしに言ってくれたって良かったのに!
「じゃあ明後日の夏祭りは…無理かー」
「は、」
「れんげの宿題が終わらなきゃ行けないよねー」
「あ、明後日だったの!?」
「そうだけど?ほら」
ぱっと画面を変えてホームページを見せてきた。この夏祭りは毎年行われていてわたしや佳主馬がうんと小さい時からずっと一緒に行っている。
「い、急いで終わらすから!ね?」
「当たり前でしょ。さっさと終わらせて」
そんな強い言い方しなくても…と思うけど、佳主馬は正論を言っているだけだから反論の仕様がない。気分がちょっと下がったまんま、「じゃあやってきまーす」と声をかけて戸を引いた。此処は納戸で、宿題やら何やらはわたしの部屋にあるからだ。
「何言ってんの、僕も行くに決まってんじゃん」
「…来てくれるの!?」
「だって監視してないとれんげサボるでしょ」
「んなことないわ!」
「はい、行くよー」
腕を掴まれ佳主馬はずんずんとわたしの前を行く。正直何だか気に入らないからわたしの顔はぶすっとしてる筈だ。もう中学生なのに。そんなに馬鹿にしなくたっていいじゃない。
*****
「早速手が止まってるけど」
「だって…」
「だって、何?」
「…わかんないんだもん」
「回答見ても?」
「回答無いの」
「は?…仕方ないなぁ」
そもそも回答無いなんて可笑しいんじゃないの?なんてぶつくさ言いながら、結局は教えてくれる、そういう佳主馬、好きだよ。
もし、佳主馬と同じ学校に通ってたら、こんな感じなのかな。放課後図書室で居残りして、2人で勉強して…。
「だからここにxを代入して…って聞いてる?」
「聞いてる聞いてる!それでこうなって…答えは4か!」
「正解。やれば出来んじゃん」
「ありがと。よし、やるぞー!」
*****
「数学終わったー…」
「お疲れ様、すっかり意気消沈って感じだね」
「もうむりー」
テーブルの上にある麦茶のグラスは汗をかいて周辺を水浸しにしていた。こんなのいつ持ってきたっけ?
「もしかしてこれ、佳主馬が?」
「あぁ、うん。喉渇くんじゃないかと思って」
「ありがとうっ!」
佳主馬に抱きついたら頭をなでなでしてくれた。夏の暑さはわたし達に汗をかかせるけど、少しの間だけ、佳主馬にくっついていたい。まだ、宿題全部終わった訳じゃないけど、このままの調子ならきっと明日には終わるんじゃないかな。てことは夏祭り行けるじゃん!
「そういえば万里子おばさんがおやつにチューチューアイスあるって言ってたけど」
「食べる!」
チューチューアイスって、特別美味しい訳じゃないけど夏になると食べたくなる。ポキンと半分に割って、味を交換しあうのも好き。
「佳主馬何味ー?」
「僕の味?試す?」
「…なんか卑猥。最低」
「チッ。りんごだよ」
「わたしブドウ!」
「見たらわかるし」
「そうすか」
お決まりの通り縁側に座ってお互いの味を交換して食べた。リンゴもブドウも同じくらい美味しかった。蝉の音がいつもより五月蠅い。
120403