「あっれ…寝てる?」
もう日も落ち掛けて、そろそろ帰ろうという話になったからパラソルの下で休んでいた佳主馬を呼びにきたのだけれど。
どうやらお疲れのようで寝ていた。疲れて寝ちゃうなんて、子供みたいだけど可愛いなあ。本当、佳主馬って静かならかっこいいのに。口を開いたら残念な感じするからね。あーもったいない。ん?でもよく考えてみたら学校じゃ佳主馬はあんまり話さない方(って本人から聞いた)で、だから佳主馬はモテちゃって告白なんてされちゃう訳で、でもその子たちなんか比じゃないくらい、わたしの方が佳主馬のことを知っていて、おまけにこの寝顔を知ってるのはわたしだけ…
「理一さん呼びにいこう」
そんなことを考えたら凄く佳主馬が愛おしく思えたりしちゃってそんなんじゃ起こせる筈がない。
*****
「かーずまー、起きてー」
「んっ、あれ、家?」
「そ。佳主馬パラソルの中で寝てたでしょ」
「あー…どうでもいいから、降りたい」
「そ、そうだね。ごめん」
佳主馬が寝てたから車から降りるのは最後で、片付けとか手伝えなかったんだけど…まあいいか。
理一さんに佳主馬をパラソルの下から車の中へ運んでもらったのだ。こんなふうに佳主馬を担ぐの何年ぶりだろうなあとこぼしていた。確かに今の佳主馬って迷惑かけるの嫌いだし全部自分でやっちゃうからこういうのって貴重かもって思った。
「れんげー、佳主馬ー。練習するよー」
「「え?何を?」」
*****
「せーのっ」
「「「はっぴばーすでーとぅーゆー はっぴばーすでーとぅーゆー はっぴばーすでーでぃあおばあちゃーん はっぴばーすでーとぅーゆー」」」
一回忌も、おばあちゃんのお誕生日会として行われた。
「「「おばあちゃんおめでとう!」」」
参列者の皆さんは去年のこともあったから驚きはしないで微笑んでみてくれていた人も多かった。
「健二さん、ちゅーしないの?」
「へっ!?」
「ほら、だって去年…」
「あ、あれはそのっ…」
「その、何?ていうかあんなカッコ悪いままでいいの?ねえ夏希姉?」
「えー!?夏希先輩まで…」
夏希姉はわたしの横に立って困ったように笑っている。夏希姉を困らせているのは健二さん。これはわたしがなんとかしなければ…!
健二さんと初めて会ったのは、去年のこの日。会って初めて夏希姉の彼氏だとか言われ今までそんな人を夏希姉が連れてきたことは一度だってないから愕然とした。それに、去年は海外にホームステイに行っていて、おばあちゃんの死に立ち会えなかったショックのなか二人のキスを見たのだから驚くどころじゃない。
「じゃあ聞くけど、健二さんは夏希姉とちゅーしたいのちゅーしたくないのどっちなの?」
「えええ!?」
顔を真っ赤にして驚く健二さん。ウブすぎないですかちょっと。高校生のお兄さんでしょ?
「どっちなの?」
「…言わなきゃ駄目ですか〜?」
「うん!」
「(れんげちゃんってこんなに怖い人だったっけ…?)夏希先輩!」
「ん?」
「ちょっとこっち…」
「あ、逃げた」
健二さんは夏希姉の腕を引っ張って向こうの方へ行ってしまった。やりすぎた…か?追いかけようと歩き出したところをいつの間にかいたらしい佳主馬に「健二さんいじりはいいから」と制された。何がいいの。わたしまだ満足してない。けど、佳主馬くんが腕を離してくれそうにないので諦めますか。
「れんげはキスしてほしくないの?」
「ちゃっかり聞いてたのね…」
「ねえ」
「あーはいはいしてほしいです!」
「じゃあ遠慮なく」
遠慮なく、って何だよ!?とか思ってるうちに視界は佳主馬でいっぱいになって暑いのと恥ずかしいのとで頬が熱くなるのがわかった。てか此処外だからすぐ近くに人いるよね?わたしの知らない人とかもたっくさん!きっと万助おじさんのイカ食べながらこっちみてるんだうわぁ恥ずかしい…。穴があったら入りたいくらいだよ!健二さん追い詰めてごめんね。
「ほかのこと考えてるなんて余裕だね」
聞いたことないような低い声が聞こえて、それが佳主馬のだということに気付くまであと五秒。
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