もう人数の少なくなった第二体育館。ぽつんと残された俺の遠子は入り口近くに立っている。体育館に最後まで残っているのもここ最近の恒例となった。そんな時は必ず遠子を呼んでいるし、大地も何も言わずに「後は頼むな」と言って帰ってくれる。みんなが帰った体育館で何をするのか、予想ついているんだと思う。大地のことだから。
「今日の練習、見てた?」
そう問うと遠子は頷いた。そして、今日の俺も相変わらずカッコ良かったとか、能の無い頭を振り絞って言葉を紡ぐ。そういうときの遠子はいつも、目を爛々と輝かせている。俺の可愛い遠子。俺に対して反抗することも抵抗することもなく、全てを受け入れてくれる。
「見てたなら分かるよね。俺、すっげー疲れたの」
そう言って、その場に座り込む。正直、もう、壁に追い詰めるシチュエーションには飽きた。
タオルとポカリを手に、俺に近付いてくる。ポカリを俺に手渡して、大体の汗を拭く。確かに全身汗まみれなのは少々煩わしい。けど、俺が今一番欲しいのはポカリなんかじゃないってこと、絶対遠子は知ってる。
「あーちょっと貧血かも。ねえ、今日は自分から晒してみてよ」
首筋。耳元で囁くとぶるりと震えた。嬉しい癖に。棒読みの俺の台詞に戸惑いながらも、遠子はちゃんとボタンを外し始めた。そう、遠子は俺に逆らえない。絶対に。いつだって従順であるべきなんだ。
「そんなんじゃ遠くて届かないよ。もっとこっち寄って」
座り込んだ俺と屈み込む遠子との間には隙間があって、まあ、普通であれば十分近いのだろうけど、こんな距離じゃ首筋に噛み付くことすらままならない。どうせいつもと違うんだから、遠子が俺に吸わせてるっていうシチュエーションもいいと思うんだ。
意を決したように、遠子は俺に擦りよってきた。そう、こうじゃなくちゃ。目の前には遠子のその白い首筋が晒されている。我慢、なんてできるわけない。理性なんかとっくにどこかに捨ててきてしまったんだから。
「いただきます、」
「っ、」
俺がかぶりつく瞬間、毎度毎度、飽きずに息を呑む遠子の声を聞くのが好きだった。セックスなんかよりも『食事』の方が俺にとって大事だからかもしれないけど、セックス中に喘ぐ遠子よりも、この噛み付く瞬間の声が、何より俺を高ぶらせる。そのことにまだ遠子は気付いていない。
『食事』中は遠子の顔を見ることができない。だけど、俺が与える快感に震えていることは、俺の服を掴む手が教えてくれる。きっと遠子は良い顔をしてるに違いない。今度家に呼ぶ時は、ビデオでも設置しようか。
130609