「か、影山…」

「なんですか?」


 一年三組、2時間目の休み時間。他人の、しかも後輩の教室にいるわたしは1人心臓をばくばくさせている。緊張から発せられた彼の名前は小さいけれど、彼に届いた。しかも、気付いていない。


「影山!」

「はい」

「影山影山影山!」

「…何なんですか」


 じろり、と視線が一層軽蔑したものに変わる。ああ、ごめんごめん。眉間のシワなんかも更に増えてる。そこまで怒らなくても。


 前回教室に来たとき、影山くんがまた来てもいいって言っていたし、影山くんが怒ってるんじゃないかっていう不安も消せた記念に、呼び捨てにしてみようと思ったのだ。案の定彼は呼び捨てになっただなんて細かいことには気付いてないみたいだけど、それはそれでわたしとしては好都合だからそのまま呼ばせていただく。学年も違うし、部活のマネージャーでも何でもないただの先輩だから一緒にいれる時間なんてそうそう無い。呼び方だけでも距離を縮めたかったから。


「休み時間、いつも寝てるよね」

「そうですか?」

「うん、いつも机に頭が乗ってる」

「…まあ、朝練あるから、眠いし」

「あ、そっか!」

「はい」

「誰か寝てるときノート取ってくれないの?」

「たまに、気の利いた奴が」

「…そう」


 もしわたしが彼と同じ学年だったら、同じクラスだったら毎時間毎時間綺麗なノートを取ってあげるのに。誰かも分からない相手に少しの嫉妬。もしかしたら、彼女が取ってくれてるのかもしれない。一瞬だったから彼女の顔なんて覚えてないけど、同じクラスなんてこともありえるし。それだったらこうしてわたしが影山に会いに来るのは相当迷惑なんじゃ…いや、いいの。影山はいいって言ってるんだし、彼女に遠慮なんてしてられない。


「ねえ、部活見に行っていい?」

「俺に聞かないでくださいよ」

「なんでよ」

「見学がいいかなんて俺決められないスから」

「じゃあ主将さんに聞いて良かったらいいんだね!?」

「………」

「よし、じゃあ行ってくる!」


 そう言って影山のクラスを後にした。最近は影山がわたしが廊下を走ってるの注意すること多いから先輩としてそれは良くない。だから廊下は歩く。
 田中西谷縁下情報によると、男バレ主将は基本的に優しくてたまに怖い、だから基本的に優しいならわたしが見学させてくださいなんて言ってもきっとさせてくれる筈。主将さんなんて会ったことないから誰だか全然知らないけど。もうすぐチャイムが鳴るから次の時間に主将さんのところ行こう。




130406
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