「影山くん、いる?」


 一年三組。教室内にいる後輩に影山くんを呼んでくれる様頼んだ。影山くんのクラスは田中に聞いた。急に影山のクラス知って、どうすんだ?、とか言われて田中には申し訳ないけど何も言わずに出てきた。なんて言ったらいいか、分からなかったのだ。会いに行ってくるなんて、それこそからかわれそうだし。まあ何も言わないのもそれはそれで、帰ったら何言われるか。
 影山ー、呼ばれてるー。おう、誰に? 多分二年の人。そんな会話が聞こえる。


「桐山さん、どうかしたんですか?」

「ちょっと聞きたいことがあって」


 どく、どく、と心臓が鈍く音を立てている。でも、良かった。この前の怖い影山くんじゃなくって、いつもの影山くんだ。睨み顔が張り付いているけど、何も考えてない。───大丈夫、言える。


「この前、わたしのこと怒ってた?」

「この前って、いつ?」

「……彼女と、歩いてたとき」

「そん時俺、怒ってました」

「えっ……」

「けど、桐山さんに対してじゃないです。そういう風に感じたなら、俺が悪かったです」


 すいません、と彼は頭を下げた。不服そうな顔ばかり見ていたから知らなかったけど、彼ってこんなに素直なんだ。


「……良かった。影山くんに嫌われたんじゃないかって、心配してたの、本当に良かった」

「俺が先輩を嫌いになる理由が見つかりませんけど」

「…そう?」


 自分で言うのもなんだが、わたしがしつこいことはよく分かってる。だから、何回も注意されるのがウザくて、あんな態度とったんじゃないかって、そう思ってたんだ。だったら注意することなんてやめればいいなんて言うかもしれないけど、そうすることでしか影山くんとの接点を、作れなかったんだ。


「先輩は正しいことしか言ってないし」


 うん、と1人頷いた彼は、真っ直ぐな目でわたしを見ていた。気付いていないながらも下心が合ったかもしれない少し前までの自分が、見透かされる様で。わたしは思わず俯いてしまった。


「ありがとう」

「お礼言われるようなことは、なにも、」

「また来て良いかな!?」

「ど、どうぞ」

「ありがとう!」


 そうして、逃げるようにわたしは影山くんの前から去った。良かった、影山くん怒ってなかった。わたし、今日、此処に来て良かった。


「桐山さん走っちゃ駄目です!」


 振り返ると彼は笑っていた。なんて素敵な笑顔だろう。いつも笑っていたらいいのに。


*****


「バカ! バカ田中」

「はぁ!? 何で俺がそんなこと言われなきゃ……何で泣いてんだよ!?」

「たなかぁ〜〜」


 教室に戻って田中の顔見たら何故か知らないけど涙出てきて、それに戸惑う目の前の田中が面白かった。多分わたし、安心したんだろうな。




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