どーしよっかなー。今はちょっとさっぱりしたい感じだからアセロラがいいけど、いつものミルクティーも捨てがたい。いや、昼メニューをあわせて考えると野菜ジュースか…! そもそもこの自販機はラインナップが少ないんだって!
「あ、」
「…影山くん」
後ろから声がして振り返ると、いつぞやの影山くんがいた。廊下を走ってた真っ黒頭のバレー部員。わたしは彼のことをそのくらいしか知らない。あ、あと睨んでる顔がデフォってことくらい。うん、やっぱり今日も睨んでるようにしか見えない。
「早くしてください、俺も買いたいんで」
「あ、ごめん」
両手使って一気に3つのボタンを押す。迷ったときはこれに限るよね。ガコン、と音を立てて出てきたのは赤い紙パック。アセロラか。ちゃりんと出てきたお釣りも忘れずに取って小銭入れに入れた。
「影山くんは何買うの?」
「ヨーグル」
そう言って片手で2つ並んでるヨーグルのボタンを押した。いや、押し方半端ないでしょ、何それ。正直言って怖いから! 力込めすぎて自販機壊れそうだから!
「影山くんっていつもそうなの?」
「そうって?」
「その、2個押し」
「? はい」
よく分からないといったように首を傾げつつも、彼は答えた。てことはそのうちこの自販機壊れるな。もし影山くんが壊したとしたら、どうなるんだろう…まさか生徒だし、弁償にはならないと思うけど…。
「どうかしたんですか?」
「影山くん、」
「はい」
「自販機のボタンは優しく押した方が良いと思う…」
「何でですか?」
「壊れちゃうからだよ! 分かった?」
「…はい」
あからさまに嫌な顔された、けど、返事したからには次からは優しくボタンを押してくれるんじゃなかろうか。
「じゃあね!影山くん教室帰るでしょ?」
「はい」
「んじゃまた」
手を軽く上げて影山くんに挨拶し、買ったばかりで汗をかいている赤い紙パックに手を掛ける。ストローを刺して一口含めば広がるアセロラ独特の甘酸っぱさ。いつもミルクティーで甘ったるいからたまにはこういうのもいいかもしれない。
「桐山さん!」
名前を呼ばれて振り返ると人混みに紛れてまだそこに影山くんが突っ立っている。…何してるの?
「立ちながらの飲食は禁止されてるはずですよ!」
まさかこの距離で年下から指摘されるとは予期してなくて思わず苦笑い。今度は紙パックを掲げて挨拶の代わりにし、くるりと方向を変えた。
影山くんに怒られるの何となく嫌だな、デフォが睨み顔なだけに。この前わたしが説教したの根に持ってたりして。だから今言われたのかも。うん、あり得る。そんなことをボーッと考えながら歩いていた。
あれ?影山くんわたしの苗字呼んだ……よね?
130320