「田中ー、西谷ーっ、廊下を走らないー!!」

「「ゲッ」」


 ゲッ、って全部聞こえてるからね一番見つかったらまずい奴に見つかっちまったとか全部聞こえてるからねそこのお2人。
 キキッと止まって肩を落としてトボトボ歩いてくる2人はしょぼくれてびしょ濡れの犬みたいだ。ちょっと可愛い。


「廊下走ったら駄目なのわかってるでしょ?」

「でも購買の焼きそばパンが…」

「もし水で廊下が濡れてたらどうするの!滑って骨折でもしたら、もうバレーできなくなっちゃうかもしれないんだよ?」

「そんなときはローリングサンダーで、」

「わかってないなーもう。部長さんに迷惑かかるでしょ!?」

「「いてっ」」

「もうお前は女子じゃねえ…!」

「何とでも言いなさい」


 2人にデコピンをくらわせてやった。この2人身長差かなりあるからやってるこっちはかなり面白い。2人とも同じ顔して豆鉄砲くらった鳩みたいな顔してるんだもん。


「あっそこの一年走るな!!」

「「影山…」」

「影山?」

「バレー部の一年だよ。中学で王様って呼ばれてた、」

「あっ、行っちゃう!じゃあね!」


 急いで黒い頭を追いかける。最近の一年は背の高い奴ばかりで、何とも言えない。わたしも低い方ではない筈なんだけどな。でも、こういうときは見失わなくて助かる。さっきの一言で自分のことかもしれないと思ったのか歩いているからまだありがたい。


「影山くん!」

「…?俺ですか?」

「うん、君」


 うわ、睨まれてる…。そんなに睨まなくてもいいのにな。思わず視線を下げてしまう。説教されるのがそんなに嫌か。でも一応君のことを思っているんだからね。バレー部じゃあいつらと同じなんだし。先輩の威厳を持って、キッと影山くんを見る。


「廊下は走っちゃダメ」

「…あ、はい」

「これは高校も一緒だから。先生が口うるさく言わなくなっても駄目なものは駄目なの。分かった?」

「はい、すいません」


 相変わらず睨んでくるけど、口調はそんなに強気でもないかも。よくわかんない人だなあ。


「そういえば、何で名前…」

「さっき田中に聞いた」


 田中と西谷のいる方を指させばくるっと振り向いて、納得したみたいだった。


「先輩は二年生なんですか?」

「ああ、うん、そうだよ」

「……」


 今度は急に何かを考え込んでいて、黙りこくってしまった。えっと、この状況をどうしたらいいだろう?わたしの用はもう終わったし、いいよね?


「とにかく、廊下は走っちゃダメだからね!」

「はい、気をつけます」

「じゃあね」


 手をひらひらと振って、教室前に来ると、まだ田中と西谷が2人で話していた。


「ふぅ〜怖かったあ…」

「なんでだ?」

「ずっと睨んでくるんだもん」

「あれな、無意識だから」

「無意識なの!?」

「ああ。だから気にすんな!」

「いたぁ!」


 今度は仕返しとばかりに西谷に背中をバシンと良い音を出して叩かれた。それを見て田中はゲラゲラ笑いながら教室へ入っていった。田中覚えてろよ…。




130315
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