先輩は悪くない。んなことわかりきってる。けど俺が大人になれねぇ所為で先輩を傷付けた。最低だ、俺は。
 でも先輩は何で俺が王様って呼ばれてたこと知ってんだ?一回もそんなこと言ってねえのに。


「……げやま、影山!」

「っはい!」

「何ボサっとしてんだ、集中しろ!」

「スンマセン!」

「怒られてやんの」

「チッ」

「ヒッ!?」


 主将に怒られるわ、日向に馬鹿にされるわで、今日は本当にツイてねぇ。
 でも、昼飯はうまかったな。


「あいつ、難しい顔してんな」

「桐山さんかなー」

「桐山さん?……あぁ」

「あの二人、本当にもどかしいよね」

「「旭……」」

「え、何二人とも。お前が何言ってんだみたいな目して」

「その通りだよ旭」

「良くわかったな旭」

「ヒドッ!?」


*****


「ま、間に合った……」

「あれ?今日は来ないかと思ってたのに。いらっしゃい桐山さん」


 部活が終わって、そろそろ帰ろうって時に、先輩は息を切らして第二体育館に来た。走ってきた、みたい。


「田中!お弁当!」

「あ、わり!」


 田中さんはまた教室にお弁当を忘れたらしく、先輩はそれを届けに来たみたいだ。またガミガミ怒っている。


「何回言ったらわかんの?これで二回目だよ?」

「まだ二回目じゃねぇか」

「そういう心持ちだから忘れるの!」

「別に俺、持ってこいなんて頼んでねえし」

「ああそうですか、わたしが悪うございました」


 田中さんを怒ってる先輩は普通で、いつも通りで。なんだ、俺じゃなくて田中に会いに来たのか。あんなに色々考えてたのは俺だけだったのかよ、クソッ。


「田中、意地張ってないでちゃんと感謝しろ」

「大地さん…………ありがとな、桐山」

「わかればよし」

「桐山さんも言い過ぎ。田中も反省してない訳じゃないんだし」

「そーだそーだ!」

「……これ、反省してるんですか?」

「えっと、どうだろう、田中?」

「え……?」


 主将と先輩が田中さんを見ている状況に、何となくモヤモヤする。なんだこれ?二人の視線に田中さんは段々青ざめていく。


「あ、そうだ。もう部活終わってますよね?」

「うん、そうだよ」

「影山一緒に、帰ってもいい?」


 一瞬、少し、身体が強ばった。





 広がる沈黙に、俺と、先輩の足音だけが響いてる。たまに電灯がジジジ、と鳴るけど。
 一緒に帰ろうって誘ったのはもしかして、田中さんのお弁当のついでとか、それとも、


「か、影山」

「はい」

「お昼のときは、ごめんね、何の気なしに聞いちゃって。影山がそんな嫌いな言葉だって知らなくて……って、言い訳だね、ごめん」

「誰から聞いたんですか?」

「……月島くんが、影山のこと、王様って。それで気になって」

「俺中学んとき、コート上の王様って呼ばれてたんです」

「コート上の王様?なにそれかっこいい!」


 実際は先輩が思ってるようなそんなカッコいいもんなんかじゃなかった。


「全部自分でやれればいいのにって、ずっとそう思ってたんです。勝つために、勝つためにって」


 全部そのためだったのに結局、おれは一人で戦ってるだけで、王様なんかじゃなくて孤独な独裁者だったんだ……!バレーは一人じゃ、できないのに。


「でも今は違うでしょ?」


 拍子抜けした。王様の由来聞いても、俺の惨めな過去を聞いてもまだこの人は、俺を見てくれるのか。


「影山、というかバレー部見てたらわかるよ。みんな楽しそうだもん。それに、今の話の影山は、もういないでしょ?」

「はい」

「じゃあ影山はもう王様なんかじゃないんだから気にしなくていいんだよ」


 最後に先輩は話してくれてありがとうって言った。
 話してよかったと思った。




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