「影山っ!」


 人混みのなかで、書き消されそうになりながら懸命に叫ぶ。パンの購買は賑わっているどころか毎日戦場だ。


「お弁当、食べる?」


 右手で掲げた物を見て目を輝かせる彼が愛おしかった。




 人混みを避けてやってきたのは裏庭。学校の屋上は常に鍵がかかってるし、どちらかの教室なんていうのはちょっと恥ずかしい。空き教室でも良かったかもしれないが、何より今日は天気が良い。


「これ全部、先輩が作ったんスか?」

「うん。味は保証できないけどね。さ、食べよ!」


 わたしは玉子焼きを口に入れた。うん、いつもと同じ味だ。味見はしたけど再確認。口に合わないかもしれないとか不安はあるけれど、影山食べる瞬間まで評価を待つなんてことできない。そんなことしたら影山は無理にでも美味しいとか言ってくれちゃうんじゃないだろうか。不味くてもきっと顔は正直な筈だ。そういうのはなんだか嫌だし、自分も照れくさいからやらない。


「……美味いっス!!」

「ほんと?良かった」

「でも先輩何で俺がお弁当持ってないって知ってるんですか?」

「よくなっちゃんの付き添いで購買来るんだけど」

「なっちゃん?」

「あ、ごめんね、友達。そのうち会うと思うけど。で、その購買でよく影山を見かけたからもしかしてお弁当持ってないんじゃないかと思って。それに持ってきてても田中や西谷にあげればいいし」

「ダメっス!」

「え、なにが」

「俺以外に作らないでください」


 そんなこと言われたら、勘違いしてしまうよ、影山。


「いい、けど……」


 あああ顔に熱集まってきた!赤くなってないかな、影山すぐ近くにいるのに気付かれないかな……。ちら、と影山を伺う。───あれ、もしかして影山、照れてる……?まるで、やっと自分の言った言葉を理解したみたいな、


「あ!いや、今言ったこと忘れてください!ほんと、俺、どうかして、」

「忘れない」

「え」

「絶対忘れない」


 絶対忘れてなんかやらない。無意識でその言葉を言ったなら、それこそわたしにも少しは見込みがあるってことだ。……図々しいかもしれないけど。それに、わたしの赤い熱は影山に移っていったらしく、無意識で言った言葉をこんなふうに焦って取り繕おうとするなんて、……かわいすぎる!


 影山って、無愛想な子かと思ってたけど、意外とそういう訳でもないみたいなんだよね。さっきのお弁当誘ったときも、今こうしてご飯を頬張っているのも、なんだかきらきらしてるっていうか、輝いているっていうか。影山は無愛想なんかじゃないんだなあ。無愛想と言えば、どちらかと言うと何かと突っかかってくる月島くん、とか。


「そういえば、何で王様なの?」


 突然影山の目付きが悪くなった。さっきまでのかわいい影山は何処かへ行って、目付きの悪く機嫌も悪そうな影山がいる。


「誰から聞きました?」

「えっと、月島く、」


 うわあああああああ影山がなんかどす黒い空気纏ってる!頗る機嫌悪いみたい。眉間の皺も凄い……兎に角この影山はやばい。知らない人だったら逃げたくなるくらいやばい。もしかして月島くんと影山って仲悪いのかもしれない。


「俺は王様じゃない」


 王様って、影山を怒らせるワードなんじゃないか、月島くんこれを狙ってたな。あんなに王様王様言われちゃこっちも気になるけど、こんな風になった影山に聞ける訳ない。なにより、わたしが影山を怒らせてしまったのだ。


「……ごめんね影山。残り食べちゃおう」

「……」


 楽しかったお昼の時間はもう此処には無かった。




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