「でね、昨日の番組すっごい面白かったんだよ!観た?」

「観てない」

「ああもうもったいない!」

「別にわたしその人に興味ないし」

「釣れないなあ」


 お昼ご飯をなっちゃんと食べた後、二人で教室に戻りながら駄弁っていた。今日は天気がいいから久しぶりに外で食べたのだ。


「あっ、桐山さん!」

「日向くん。どうしたの?」

「もしよかったらかくれんぼしませんか?今メンバー集めてるところなんです!」

「誰?」

「えっと、こちらバレー部の日向くん」

「バレー部!?」

「ち、ちがうからね!」

「違いませんけど?」


 何も知らない日向くんは呑気に「俺バレー部っすよ?」とか言っている。ああもう!いらんことしいが!違うんだよ!なっちゃんが反応してるのはわたしの好きな人がバレー部にいるからその子じゃないかって好奇心掻き立てられてるんだと思うんだけど違うんだよ!なっちゃんわたし言ったよね?影山って言ったよね?日向くんじゃあないよー!


「それで、何か用あるの?」

「あっそうだ!もしよかったらかくれんぼしませんか?今メンバー集めてるところなんです!」

「かくれんぼ?」

「はい!」

「やろうかな、なっちゃんはどうする?」

「暇だしやってもいいよ」

「じゃあ決まりですね!ジャンケンしましょう!」

「待って、他の人達は?」

「いませんよ?」

「いないの!?」

「はい」


 どうやら本当に個人的に日向くんがやりたかっただけらしい。メンバーは3人という極少ない人数だけれど、もう気分はかくれんぼなので3人でジャンケンをした。


「あっ負けた〜!」

「じゃあ日向くんが鬼ね」

「校内の敷地なら何処でもいいのよね?」

「はい!じゃあ数えますよ!いーち、にー、さーん、」

「じゃあねなっちゃん!」

「健闘を祈る!」


 健闘を祈るって大袈裟な、なんて思いながらなっちゃんと別れた。わたしは何処に隠れようか?ロッカーでもいいんだけどなんか嫌だしなあ。敷地内なら何処でもいいって言ってたし、校舎から出てみようか。


「あっ、この辺いいかも」


 見つけたのは植物が生い茂っていて、一見外からじゃ人がいるなんて分からなそうな場所。しゃがんでればまず見つからないだろう。ずっと見つけてもらえなかったら予鈴が鳴ったら教室戻ろう。流石に授業に遅れるのは痛い。

 ざく、ざく、足音がする、誰か来たみたい。咄嗟に息を潜める。
 足音は丁度わたしがいる前辺りで止まった。葉っぱや茎があるから誰がいるのか分からない。もしかしてもう見つかった……?


「別れよ」


 ええっ、いきなり修羅場!?日向くんではなく女の子の声が耳に届く。回避できないにしろ、他人の修羅場に聞き耳立てるなんて不本意だ。かと言って今から出ていくことも出来やしない。この人達の話が終わるまで待ってなきゃいけないのか……。


「もう、わたしのことなんか好きじゃないんでしょ」

「…っ!」


 相手の方が息をのむのが分かっても、何故か何も言おうとしない。何か事情があるのだろうか。


「あっー!桐山さん見つけ、」

「しっ!」


 見つからないと思っていたのに案外あっさりと日向くんに見つかってしまったが今はそれどころではない。大声を出す日向くんの口を押さえ茂みに連れ込んだ。幸い修羅場の当事者たちには気付かれていないらしい。……助かった。


「な、なな何するんですか」

「いいから静かに」

「はい……」


 その時急に、彼女が「何で何も言わないのよ!」と怒鳴った。彼が何も言わないことに腹が立ったらしい。


「……何がどうなってるんですか、これ」

「後で説明するから静かにしてて」


 もういい、ばいばい、さよならと言い去った彼女の声は震えていて、何の関係もないわたしまでが苦しくなる。でも所詮は他人事。何か辛いことがあったんだろうなー、それだけだ。
 彼女を追いかけるようにして、ではなかったが、暫く経った後に鳴った予鈴で我に返ったように、彼もこの場を立ち去っていった。


「何でこんなの聞いてたんですか?」

「不本意だよ、元々此所にいたのはわたしの方が先だったんだから」

「で、どういうこと、だったんですか?」

「彼女が彼氏を振ったんだよ」


 え、といった顔で日向くんが固まる。そうか、今のも分からないくらい子供なのか。なんて考えるのは失礼だろうか。


「おーい日向くんー」

「っは、はい」

「予鈴鳴ったし、戻らないと」

「あっ、でもなっちゃんさんが……」

「予鈴鳴ったら御仕舞いって連絡しといたから大丈夫だよ」

「ありがとうございます!」


 ああもうやだな、何でわたしまで憂鬱な気分になってるの。




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