「おはよう」

「お、おはよう。昨日は…」

「俺が悪かった、ごめん」

「え?」

「今更昔のことをどうこう言ってもどうにもならないのに、自分の所為でTRAPが終わったのに、直子に押しつけようとしてた。本当にごめん」

「いや、TRAP終わったのはサイコーの所為じゃないし、お世話になってるのに何にも言わなかったのはごめん。でも、そういうの、わたしから言うのは違うかなって。いくらわたしが知ってるからって、それを頼りにするのは亜城木じゃない気がして」

「うん、直子の言う通りだよ、本当にごめん。俺達は俺達で頑張らなきゃいけないんだ」


 この選択は正しいはずなのに、どちらにもつらい気がして。サイコーの声色はどうも掴めなかったけれど、顔は晴れ晴れしていたので多分これでいいんだろう。


「んで、お詫びって訳でもないけど…」

「あ、鍵!」

「うん、此処にいるからには無いと不便でしょ?」

「ありがとう」

「で、あと、昨日はお風呂無いなんて言ったけど、シャワーはあるから…一応…」

「ありがとう。何から何まで」

「どういたしまして」


 なんだかんた言って、やっぱりサイコーは優しいじゃないか。この世界の中では一番知っているといっても、やっぱり全然知らないわたしなんかの為に、こんなことしてくれて。


「サイコー」

「ん?」

「……やっぱり何でもない」

「変な直子」


*****


「じゃあこれ、預かって行くよ」

「「はい」」


 TRAPの最終話の原稿を上げて、アシさん達が帰った後、港浦さんが取りに来た。


「港浦さん、」

「え、誰!?」

「申し遅れましたが、サイコーの友達の直子といいます。実は訳あって今は此処に住まわせていただいています」

「同居!?」

「じゃないですよ港浦さん。僕ここで寝泊まりしてないですから」

「あっ、そうだな」


 最近の若者は色々と早いから勘違いしちゃったよ、なんて言う港浦さん。何よ、もう。わたしが手が早いって言いたいの?それともサイコー?残念ながらわたしもサイコーも奥手よ、それもかなりのね。


「実は港浦さんに相談があるんです。服部さんに会わせて欲しいんですけど」

「服部って、服部先輩のことか?何で君が先輩を知ってるんだ?」

「服部さんは、わたしの命の恩人なんです。倒れているわたしを助けてくれた…だからお礼を言いたいんです!」

「なんだ、そういうことか。じゃあ先輩に言っておくよ」

「ありがとうございます!」

「じゃあな、亜城木くん、そして杉田さん」


 そうして港浦さんは帰って行った。港浦さん馬鹿だなぁ。良かった、すぐわたしの話を信じてくれて。あながち間違ったことは言っていないけど、事情を知らない、というか記憶にないシュージンの前だから、手短に済ませたかった。後は服部さん次第で会ってくれるかどうかが決まるけど…服部さんだから会ってくれるって信じてる。見ず知らずの人を助けてくれるような人だもの。


「杉田…って何で服部さん知ってるの?」

「シュージンいいから」

「え、いいって何が、」

「さー帰るぞー次のネーム考えろよシュージン」

「お、おう」

「2人ともおやすみなさい」


 わたしが何をしようとしてるのか、完全にはわかっていないと思うけど、それでも、わたしを庇ってくれたことが嬉しかった。あの頃はよく、服部さんがわたしを気にかけてくれていたのを思い出したのか、覚えていたのか。




120701
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