わたしが思っていたのとは違って、女神は優しいのかそうでないのかわからなかった。
 帰ったら日付はわたしが向こうの世界へいった日付のまま、時間は動いていた。つまり時間が止まっていたという話になる。家族に心配がかかるとかそういうのはわたしの取り越し苦労に終わった訳だ。


「はーあ」


 なんて言ってももう、半年前の話になるけど。サイコーに会ったのももう、夢みたいに記憶の底に薄れてる。あれも良い思い出。わたしのサイコーへの好きが募っただけだけれど。


「あー、あー。もしもし?聞こえる?」

「き、聞こえます…?」

「何で疑問系なの。お久しぶりね、女神よ。覚えてるー?」


 また姿を見せぬままわたしに話しかける女神が現れた。(…のか?)この人と話すのも、半年振りかぁ。


「…覚えてますとも。時を止めてたなんてどういうつもり?」

「あら。いつからアタシと対等に話せる立場になったのかしら」

「…どういうつもりなんでしょうか」

「そんなことより良い話があるんだけど。一分だけあげるわ、支度なさい。あの世界へ送ってあげる」

「え、ちょっと、どういう…!?」


 聞いても返事は無く、答えるつもりは無さそうなので、女神に従って支度をすることにした。
 部屋の片隅にあった小さめのキャリーバックに下着や服やらを適当に詰め、ハンドバックには財布と携帯とかをぶちこんだ。またいなくなるんだし、持ち物を持って階段をかけおりた。


「お母さん、行ってきます!」

「んー?行ってらっしゃい」


 割と自由主義なのでいつもの通り何処に行くのかも聞かれることはなかった。さぁ、女神さん、そろそろ一分経った筈よ。


「ふ、わあぁああぁぁぁああああ!」


 ふと下を見ると床が透明になり、安定感がなくなってわたしは空の中にいた。
 荷物を必死に手繰り寄せ、その浮遊感に必死に耐える。なんといっても寒さと、一人だけという不安感がわたしを襲う。これ、当たり前だけどタワテラで味わったものの何倍も怖いわ!
 問題なのはここが本当にバクマンの世界なのかってこと。てか、このまま落ちたから昔わたしは怪我して病院送りになったんだよね?これじゃ二の舞になるんじゃ…痛いのは嫌だあ!


「うわっ」

 わたしの周りが白に包まれる。冷たい。
 べしゃっと雪で覆われた地面に叩きつけられた筈なのに、全然痛くない。…冷たいけど。女神の計らいか何かかな。


「え、杉田…?」

「へ?」


 上から注がれた声に顔をあげるとサイコーの顔があった。え、みんなの記憶は、消えたんじゃなかったでしたっけ?


「杉田?杉田だよね?」

「は、はい」

「今、時間ある?ちょっと来て」


 腕を掴んで連れて来られたのは仕事場。あの、貴方あんまり知らない人を家(厳密には違うけど)にあげるような人だっけ?


「名前は、」

「杉田です」

「じゃなくて下の名前」

「直子」

「そう、前聞いてなかったから。直子、ね」


 キャリーを側に置いて、仕事場の床に正座させられている。冷えているけど先程暖房を入れてくれたのでここは我慢しますか。


「ずっと疑問だったんだけど、杉田がいなくなってからみんな杉田のこと忘れてて、聞いても誰も知らないって言うだけなんだよ。ねぇ、なんで?」


 いやーあの、わたしもわからないんですが、とは言えず、異世界人という説明を簡単にした、けれど信じてもらえる筈もなく、凄く不審な目で見られてます、つらい。
 けど、わたしが此処からいなくなる時も透けてったし…などとぶつぶつ口にして、少し納得したみたい。


「で、あの、1つお願いがあるんですが…」

「なに?」

「行く宛がないので、此処に住まわせて下さい!」

「えっ…いくら困ってるとは言え、女の子を住まわせるのは…」

「お願いします、此処でわたしを知ってるの、貴方しかいないんです」


 うーんと考えるようなポーズをして、サイコーは口を開いた。


「じゃあ、いいけど、此処は仕事場だからキッチンもお風呂も布団も無いよ?」

「構いません!」

「じゃあ…明日此処の合い鍵持ってくるから」

「ありがとうございます!」

「じゃ、よろしくね、直子」

「!…はい!」




終わりと始まり
「あともう少しでシュージンとかアシスタント来るからー」
「本当ですか!」


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