「うっわ、なにこれ……」

「さっき届いた、港浦さんからの段ボール」

「港浦さん!?あぁごめん!わたし、止められなかったの、TENでやろうとする港浦さん、ほんとごめん……港浦さん貴方達に酷いこと言ったでしょう?ほんとに、」

「何で杉田が謝るんだよ」

「そうだよ、まあこれでどんだけ港浦さんがギャグやりたいのかわかったし」

「それなら、いいんだけど……」

「にしても港浦さん駄目だなー」

「ヤベー!TRAPに赤ペンでギャグ入れるポイントとか書いてある!」

「やってること馬鹿すぎだろ!」

「み、港浦さん……本当に不甲斐ない、ごめんなさい」

「だからなんで杉田が謝るんだって。杉田は何もしてねーじゃん、な、サイコー?」

「そうだよ」


 だってわたしはこうなることを唯一知ってた人だから。サイコー達にとって今となっては何でもないことでも、わたしが動けば回避できることなら回避させたい。亜城木係、なんだし。


『ピンポーン』


 そんな時、チャイムが鳴った。


「やべ、もしかして段ボール第二弾じゃね!?」

「!」

「港浦さん!」


 ドアを開けるとヌッと顔を出してきたのは港浦さん。なんだかげっそりしている。本当に駄目だな、港浦さん。今頃気付くなんて。


「入ってもいいか」

「えっ?はい」

「いや、ここでいい!」

「やめてください、もういいです……!」

「謝らせてくれ、どう考えても俺が悪かった、俺が……!」


 土下座して、大の大人が、まだ未成年に……あああもう、港浦さん。しっかりして。


「とりあえず部屋に入ってください!」

「わかってますからお願いします!」


 玄関先で大声出して、しかも土下座なんかしてたらご近所さんに迷惑になるし、それをやられてる亜城木、というかサイコーに迷惑になるってわかんないのかな、全くもう。
 3人がソファについて落ち着きを持って話し始めたのを見て、わたしは四人分のコーヒーを淹れ始めた。


「な、なんというか僕はまだ編集者として未熟で……」

「それを言うなら僕達はマンガ家としてもっと未熟ですよ」

「そ、そう言ってもらえると有り難い。だから互いの未熟さを補いながら一緒に成長していけたらと……」

「もっと自信持って僕達を引っ張っていってくださいよ」

「港浦さんは一生懸命やってますよ」

「そうか!ありがとう。協力してやっていこう」

「「で、ギャグでやる条件ですけど2つほど……」」

「まっ、全く君達は条件とか多過ぎだぞ……」


 妥協なんかしてたら良い漫画なんて描けないもの、と1人で突っ込んでおく。


「まず、やるなら『TEN』じゃなく新作をもう一度読切で試してから」

「そして内容はもっと子供向けの設定でやる事」

「また読切!?2号連続でやったばかりなのに……」


 だってこんなに先のことちゃんと考えてやってる人少ないと思う。福田さんだってここまでは考えてないだろうし、エイジは天才タイプだし、平丸さんはもっての他だし……うん。ここまでちゃんと考えてやってる人いないよ。条件だって出す方がそれくらいちゃんと考えてるってことだ。


「無理ですか?今度はもっとギャグに徹したのを試してみたいんです」

「コーヒーどうぞ」

「あ、ありがとう直子」

「ありがとう」

「うーん、そうだよな。読切で試すのは大切だと今回よくわかったし……ああっ!できるぞ読切!赤マルで!」

「「赤マル!!」」

「っ!?」


 いきなり耳元で大きな声出されちゃそりゃびっくりもする。お陰で御盆をひっくり返しそうになった。


「巻頭はカラーだし、1位獲れば確実に連載に繋がる!」

「それやらせてください!」

「1位獲れるように頑張ります!」

「よしっ、夏の赤マルでやるとしてそのギャグはどんな話だ?」

「そこまではまだ決まってませんよ。ギャグでやってみようってさっき決めたところで……」

「ただ、ギャグなら子供から大人まで楽しめる作品にしたいと思って」

「『サザエさん』『ちびまる子ちゃん』『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』だな!」

「そうなんですけど、それでしかも『ジャンプ』でウケるって難しい気もするんです」

「うーん何かひと工夫ないとな」


 まあでも、本人たち楽しそうだし何でもいいか。わたし何かが口出しするようなことではないし、御盆がどうので怒るのも馬鹿馬鹿しいし。


「動物はどうだ?あと、しずかちゃんみたいなヒロイン」

「ヒロインか〜。そこでいつも悩んじゃうんですよね〜。どう書けば魅力的になるか」

「そういえば高木くんの作る話はいつも女の子に魅力がないとか吉田さん言ってたな」

「ええーーっ、言われちゃってるんですか……」

「彼女いるのに何で女の子描けないんだよ」

「僕の彼女男まさりなもんで……」

「うん、そうか。そうだったな!」

「ふーん、香耶ちゃんに言っちゃおうっと」

「ま、待ってくれ杉田さん!今度何か奢るから!」


 うわ、物で釣ろうとしてる駄目な大人が此処に1人。でも言ったからには今度本当に何かお願いしてみようかな。


「直子、港浦さん困らせんなよ」

「はーい」


 じゃあこの話は保留ということで。




131027
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -