結局、読み切り2本の結果はTENが10位、Future watchが9位ということになった。二人がその連絡を受けたのも大学で、わたしがその場にいれなかったことが悔やまれる。こればかりはどうしようもないが。
 一応順位の高かったFuture watchで連載になる、筈なんだけど……。


「はあ〜」

「港浦、『TEN』にするか『Future watch』にするか、悩みどころだな」

「え?」

「ちょっ、雄二郎さんっ!来てください!」

「……俺何か不味いこと言った?」


 何にもわかってない雄二郎さんを港浦さんから離れさせ、人目に付かないところで話始めた。


「何言ってくれちゃってるんですか!」

「やっぱまずかった?」

「まずいどころじゃありませんよ!」


 雄二郎さんのこの一声で、港浦さんがギャグマンガのデータを漁り始めて二人を困らせるんだから!とは、口が裂けても言えないが。


「でも、杉田さんも口出し過ぎじゃない?」

「亜城木係が亜城木を心配するのは当たり前です!」

「そ、そうか」


 港浦さんに目を向けると、何か爛々とした様子でパソコンを見つめている。あーあ、スイッチ入れちゃった。


「もう!雄二郎さんの所為ですよ!」

「俺何もしてなくない!?」


 確かに二人が成長するためにはタントは必要なんだと思う(経験的に)、けど二人の才能が活きるのは決してギャグじゃないんだって!見てきたからわかるけど!港浦さんにはわからないと思うけど!


「まあまあ、杉田さん。そんなに怒らなくても」

「……皆さん何も知らないから」

「どういうこと?」

「いえ、何でもありません」

「今から美人作家と打ち合わせに行くんだけど、杉田さん行く?」

「……行きます」


 さっ、じゃあ行こうかーなんて言う山久さんに連れられて、編集部を後にした。流石山久さん。扱いが上手いなあ。既に怒りの気持ちがちょっと収まって、作家さんに会うのが楽しみになってきている。山久さんが担当してた美人作家といえば蒼樹嬢だ。


「わかってると思うけど、口出しはしないでね」

「勿論です」


 カランカラン、とロイヤルホストの扉を開く。既に待っている蒼樹嬢のもとへ。って、作家さん待たせてていいの!?でも、蒼樹嬢ならきっと五分前に着いてそうだし、そういうことかな。


「こんにちはー」

「こんにちは」

「そちらの方は?」

「編集部の専属清掃員兼亜城木係の杉田直子です。今日は見学に来ました、よろしくお願いします」

「亜城木係……?」

「まあ、バイトの子だよ。早速始めましょうか」


 ちゃんと仕事モードになった山久さんは早速話題を切り出した。山久さんってなんか変態っぽいし、もといた世界だとあんまり好きじゃなかったんだけどメンタル面のカバーとか、仕事はきっちりこなすところとか、実際あってみて意外と凄い人なんだと感じた。


「FAXしてもらったネームが面白かったので、すぐにでも打ち合わせをしたいと思いまして」

「ありがとうございます」


 山久さんのおだてに軽く挨拶をしていく蒼樹嬢。男性不振、か……。確かにそりゃまだ知らない人と仲良くなんてのは無理だよなあ。


「恋する女性の気持ちなんか参考になるなー、なんて感心して読んじゃいました。僕の恋愛の教科書にしたいくらいです。ただ、」

「……?」

「これ、全体が女性視点で描かれてしまっている。少年マンガですから、あくまでも男の子の視点で描いてほしいんですよね」

「……はい」

「失礼ですけど蒼樹さん、綺麗だし恋愛経験は豊富ですよね?あっ、セクハラになると思ったらすぐ言ってください。答えたくない事も答えなくていいです」

「……も、もちろんお付き合いした事はあります」

「たくさん?」

「お答えしかねますがそらなりにです」

「あっ、ごめんなさい。うーん。その過去の恋愛や友達から、男性の気持ちわかりますか?」

「……そう、言われても」

「ここ、大事なんです。ぶっちゃけて言うと男性視点で描いてもらうのに僕の男性としての意見を言った方がいいのか……」


 目に見えてわかる蒼樹嬢の山久さんに対する嫌悪感。わたしは山久さんの隣に座っているから、山久さんと同類にされて、蒼樹嬢に嫌われるのは嫌だなあ。山久さん嫌いじゃないけど、蒼樹嬢とは仲良くやりたいもの。


「大丈夫です、自分で描きます」

「そうですね。蒼樹さんなら恋する男性も女性も描けますよ」


 何を根拠に言葉を羅列しているんだこの大人は。などと思いながら山久さんと蒼樹嬢の会話を聞いていた。こうやって編集は作家さんに描かせるのか。


「じゃあ男性視点で直しお願いします」

「わかりました、お疲れ様です」


 蒼樹嬢とは反対に歩き出して暫く。「山久さんちょっと此処で待っててください!」返事も聞かずに踵を返して蒼樹嬢の後ろ姿へ走る。


「蒼樹さん!」

「……?はい」

「わたし、山久さんとはあまり繋がってないのでお困りの事があればいつでも頼ってください。なんて、子供が言うことじゃないかもしれませんが。さっき言った通り、わたしはただの亜城木係なので!」

「はあ」


 さっと、編集部でつくってもらった(雄二郎さんがやってくれた。んだけどあの人やっぱり暇人?)名刺をさっと取り出して蒼樹嬢に押し付けた。連絡来なくても、わたしのことを知っていてくれればいい。そのうち他の漫画家さんたちとも無理言って会うから。


「何の話したの?」

「女子どうしの秘密です」

「そりゃあ聞けないね」


 あながち間違ってないと思う。




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