すう、と髪を撫でてみる。さらさらだ。寝息をたてている直子は安らかな顔をしている。

 実はまだ、亜豆には直子が仕事場にいることを伝えていない。隠し事はなし、と言っている手前、言わなくては……と思うのだがなかなかチャンスを見つけられないでいる。多分、亜豆も直子のことは覚えていないと思う。俺以外に直子を覚えている人は誰一人としていなかったのだから。そう思うと余計にどう説明したらいいのかわからなくなる。直子の言うとおり、小学校の時の同級生と言えばいいのだろうが、もしも、万が一亜豆が直子を覚えていたら。俺は亜豆に嘘つきと思われてしまう。


「なあ、直子。お前はどこから来たんだ?」

「……もり、たか」


 やべえっ、起こした!?身体を硬直させ見守るが、直子はまた寝息を立てて眠りについたようだった。焦った、本当に。寝てるからそんなことを聞いただけで実際面と向かって聞くつもりはない。多分、直子も俺に前と同じことを言う筈だ。異世界から来たと。そんなこと、信じられる訳もないがそれなりに受け入れているつもり、だ。
 それにしても、今、もしかして、名前で呼んだ?いつもは「サイコー」なのに、なんで?名前で呼ぶのは遠慮してて、心の中でだけ名前で呼んでる、とか。なんだそれ、恥ずかしい。俺だって下の名前で呼んでるんだから直子も最高って呼べばいいのに。もしかして亜豆がいるから遠慮してるのか?そういえば、亜豆の話題に触れたがらない。まだ亜豆の話なんてしてないんじゃないか。亜豆がいることは、知ってるのに。


 その時、携帯が鳴った。


「もしもし」

『いい加減帰ってきなさい!ご飯食べるって言うから残してあるのに』

「ご、ごめん!すぐ帰る!」


 やべ、連絡入れてから一時間も経ってる。そりゃ怒るよな。
 財布をポケットに押し込んで、直子を起こさないようにそっと帰った。




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