「待っ…てたのか…?」
「それ以外に何があるっていうの」


 少し肌寒そうにして名前はドアの前に立っていた。因みに今は午後の12時を回ったところで、いつもよりかは早く家に帰った方だ。それでも今までずっと待たせていたのかと思うと申し訳なくなった。約束など交わした覚えが無いから俺が悪い訳ではないが。そもそもこんな時間に来るなんて、どういう神経してんだこいつは。

 ごそごそと鍵を取り出して開ける俺に早く早く、と急かす。全く、何だっていうんだ。そんなに急かさなくても家は逃げないっての。


「で、何しに来た?」
「目的が無きゃ来ちゃいけないの?」


 勝手に紅茶いれて、勝手にソファーでくつろいでいる名前に話しかけたらそんなことを言われた。いや、じゃあ何で来たのかってことだよ、俺が言いたいのは。名前がいれたコーヒーをすすった。


「もう秋だねー、まだ暑いけど」
「ならそのクッションを離せ。見てるこっちが暑くなる」
「冷房効いてるからいいのー」


 相変わらずのマイペース…というか自分道を貫き通す(悪く言えば自己中か)名前にはもう慣れた。こいつは一回言ったらもうそれを曲げたりしない、まあ、大抵の場合はだが。


「ねえ、ビリヤード行こうよー」
「今からか?」
「遅く帰ってくるあんたが悪いんじゃないの」


 だからこれでもいつもより早い方だって、と心の中で愚痴をこぼしていると、まあこれでも早い方なんでしょうけど、という声が聞こえた。わかってるなら言うなよな、俺だって好きで遅くに帰ってきてる訳じゃない。


「わたしの奢りでどうよ、好きな酒頼んでいいからさー」
「…まじで言ってるのか?」
「うん、マジ!」


 まじで行こうぜせんぱーせんとおおおおおとか叫び始めたので近所迷惑を恐れて俺は名前に従うことにした。


*****


「まっすたーばんわー」


 行きつけの店らしく、慣れた様子で入っていく。店主に何やら言った後戻ってきて気乗りしないままゲームは始まった。


「とか言って、楽しくなってきたでしょ?」
「まあな」


 久しぶりということもあり、楽しんでいたのは自分自身でもわかる。


*****


「さすが吉久…」
「俺をなめんなよ」


 そんな訳で柄にもなく熱くなり勝ってしまった。一緒にゲームをした見知らぬ人からも拍手をもらうというのは少しばかり歯痒い。照れながら頭をへこへこさせるのも慣れていないから恥ずかしさがつのる。


「吉久の勝利を祝して!」
「「「乾杯ー!」」」
「…乾杯」
「テンション低いなぁー、あれ、もしかして照れてる?」
「酒の所為だ、馬鹿が」


 ふうん、それなら良いけど、と少し茶化すように言ったけれどそんなことはどうでも良かった。今更になって今日が9月10日なことに気づいたからだ。 また気を使わせたんだな。それたもあいつは「わたしがそうしたいからそうしたの」と言うだろうか。そんなことを考えて自嘲気味に笑った。


*****


「今日はありがとな」
「なんで払わせてくれなかったのさ」
「女に奢られてたまるか」
「今まで女扱いしてなかったのは何処のどいつでしょうねー?」


 そんなこと言われたら何も答えられない。ずっと近くにいすぎて大切さがわかってなかったんだ、昔の俺は。東京に一人出てきた時は不安でいっぱいだった。それが名前がいない喪失感が大きく絡んでいることもすぐにわかった。って、昔の話をして何になるってんだ。


「来るとき気付かなかったけど星無いね、今日」
「明日は雨かもな」
「折角の日なのに星くらい出してくれたっていいのにね、神様は意地悪だ」
「…送ってくよ、今から家寄ってたら朝が大変だぞきっと」
「…泊まるつもりで来たのに」
「…もうそんな歳でもないだろう、俺もお前も」
「いやだ、あんたなんかと一緒にしないでよ、おじさん」
「俺がおじさんならお前はおばさんだろうが」
「煩いなあ。吉久の家に大きい荷物あるし、わたしは家には帰らないよ」
「…勝手にしろ」


 40過ぎの独り身のおっさんとおばさんが1つ屋根のしたって無理にも程がある。前にも言ったがこいつは言ったことを曲げないから今更何を言っても聞かないだろう。綺麗な顔してて回りの男がほっとく訳が無いのにここまで一人ってのは…なんて、何を考えてるんだ俺は。




星の無い夜空
いつになっても俺の心は曇りだらけだ
(時折雲の間から見える光は…)




□□□□
瓶子さんの名前キャラマンには載ってなかったけどggったら出てきたんで使ってみた。まあ問題は無いでしょう。このサイトでは珍しくかなり年齢がいってる女性ということだけど、瓶子と同等の扱いをしたかっただけ。
おめでとう!

110910

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -