「ねえねえ千種、」


千種が作った朝ご飯を頬張りながら、ふと、思ったのだ。


「今日って骸様の誕生日じゃない?」

「……今頃気付いたの」


壁に掛かったシンプルなカレンダーには、9のところに大きな丸が付いている。因みに、その丸を描いたのはわたしだ。骸様が好きなわたしにとっては大事な日なので(とは言ってもみんなの大事な日だけれど)わたしが何よりも最初に丸を付けた。


「こんな呑気に食べてる場合じゃない!」

「ちょっと待って、ご飯はちゃんと最後まで食べて」

「はあい」


ご飯をそのままで自室へ行こうとしたら止められた。渋々とまた元の椅子へ腰掛ける。自分の温もりが残っていてあたたかい。


「そういえば犬とクロームはどうしたの!?」

「食べながら喋らない!」


女の子なのにも関わらず、ご飯粒を飛ばしながら千種に話した結果怒られた。なんか千種お母さんみたいだ。でもさ、仕方ないじゃん。大事な日にみんながいないなんてことになったらそれこそ一大事だもん。そういうことはきちんと聞いておかないと。それに、女の子だって急用だったらご飯粒飛ばすことの一つや二つあるでしょう?


「犬はガム買いに行った。クロームは知らない」

「知らないとかどういうことよ!?あんた朝から起きてたんでしょう!?」

「…多分部屋」

「なんでそれを早く言わないの」


左手でさっと携帯を取り出し、クロームに電話をかける。電話は同じ会社同士なら無料という某サービスをフル活用して、内線代わりである。


「もしもしクローム?ケーキの材料を買ってきてほしいんだけど。うん、勿論チョコクリーム。…そうだなあ。2つくらい?うん、お願いします」

「まだ食事中でしょ、電話なんかかけて…」

「残念でしたあ!もう食べ終わってますうーごちそうさま!」


*****


「よし出来た…!」

「名前って料理下手だったんだね…」

「う、煩いわねえ!苦手なことの一つや二つあって当然でしょう人間なんだから!」

「名前煩い」


目の前には形は違えど味は同じであろうホールケーキが二つ。わたし達女子がケーキを作ってる間、男2人には部屋の装飾をやってもらっていました。犬が落ち着き無くて千種大変そうだったなあ…


「他人ごとだと思って…!」

「そんなことないしー」


どうやら口から出ていたようです。まあこんなことは日常茶飯事だから
今更気にしないけどね。


「うっわ…なにこれ。まずそうだびょん」

「犬の分は無いから」

「なんでオレだけ!ひでーびょん!」

「酷いのはどっちですか。さー食べよー」

「名前、ご飯は?」

「……忘れてた」

「2ホールあるから、いいんじゃない?」

「犬は晩飯抜きだけどね」

「ふざけんな!飢え死にさせる気か!」

「じゃあ謝れ」

「おやおや、言葉遣いが悪いですよ」

「骸、様…」


部屋の奥の方から歩いてきたのは骸様で、


「泣く程僕が恋しかったのですか?」


そう言って頭をなでてくれる骸様の手が、懐かしくて、優しくて、更に涙が溢れたのは言うまでもない。


「実体のある、幻覚ですよね」

「勿論です。まだ出れませんから」

「心配でした、ずっと」

「あんなに心配しなくていいと言ったのに」

「じゃあ心配しちゃいけないんですか?わたしの全てが遠く離れたところにいて、一切連絡がとれないというのに、心配しちゃいけないんですか…?」

「嬉しいです。名前がそんなに想ってくれて」


きゅ、とわたしは優しく抱きしめられ、骸様の香りでいっぱいになった。いない筈の骸様が此処にいる。本当に此処にいる訳ではないのに、温かかった。


「骸様俺たちのこと忘れてるびょん」

「煩いですね、犬。どうせお前は夕飯抜きなのだからあっちに行ってなさい」

「……」


*****


結局わたしはそのまま寝てしまい、次の朝にはもういなくなってしまったのだけれど、
リビングに行くと空になったお皿と、走り書きのメモがおいてあった。

″ケーキ美味しかったです″



「Buon Compleanno.」



□□□□
大幅な遅刻_| ̄|○

110627

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