「少尉を呼び捨てにするな」

「……はぁい」


 いつもの調子でダリルをダリルと言ったら怒られてしまった。これで何回目になるかな、名前くらいじゃ何も変わらないのに此処の人達は形式に拘る人間ばかりだ。
 ダリルとわたしは腐れ縁で幼馴染みみたいなものだ。小さい頃からダリルはわたしのすぐ近くにいて、ダリルのお父様の影響でダリルがGHQに入った時も、わたしはすぐ彼を追いかけた。幼馴染みなんて言っても彼はわたしを良いオモチャとしか思ってないだろう。だって会うといつも殴られる。それでも、わたしはダリルが好きだ。ダリルの側にいなくてはと思う。ダリルはエンドレイヴに乗ればそれはそれは強いけれど精神的にはまだ未熟。そんな時はわたしが守ってやらなくちゃと思ってしまう。


「あっダリ………少尉!」


 怒られたばかりなのに彼の金髪を見つけて思わず呼び捨てにしてしまいそうになった。もう、ややこしいったらありゃしない。此処には人が沢山いるし、呼び捨てにしたらわたしを怒った上司の耳にすぐ入ってしまうだろう。


「いきなり呼び方変えるとか気持ち悪いんだけど。いつものにしてよ」

「ダリル!」


 そうしたらダリルは、獲物を見つけた時の顔とはまた違う笑顔で、ニッと笑った。


「で、用は何?」

「あ…用は、無いや…」

「…僕は名前と違って暇なワケじゃないんだけど」

「ご、ごめん」

「罰」


 一言そう言うとダリルの長くて綺麗な指が伸びてきて「わー相変わらずだなぁ」とかって思っている間にデコピンされた。しかも、凄いストレートに入った、痛い…。ちょっと涙目になりながら(だって本当に痛いんだもん!)ダリルをキッと睨むとざまぁみろとでも言うような顔でわたしを見た後、身体を翻して去っていった。わたしへの「またね」の手を忘れずに。あぁ、こういうところが嫌いになれないんだ。(デコピンは痛かったけど。まだじんじんして痛むけど!)


「って、わたしもこの書類を届けないといけないんだった!」


 暇人じゃないよー!なんて心の中で言ってみるけど既に背中が見える筈もなくて。はは、なんて自嘲する。
 その時だった。


“ドン”



「あっ…」

「いった!」


 わたしより立場が上だと思われるお姉様方にぶつかられて、書類を落としてしまった。うわー、つるつるの廊下だから結構遠くまでとんだな…。


「ちょっとアナタ、何処行くつもり?」

「謝りなさいよ!」


 何処、と言われましてもあの書類拾うだけなんだけどな、なんて思うけれど言う訳もなく。かといってわたしは悪くないだなんて言える訳もなく。


「申し訳、ありませんでした」

「それが謝る人の目?」

「ふざけてるの、ねえ!」


 じりじりと壁に詰め寄られる。高いヒールを履いている所為でやむなく上を向かなければならなくなっている。わたしに何かを言う度、お姉様の美しい縦巻きロールの髪が揺れる。
 わたし別に悪くないのに。ストレス溜まってるんだな、彼氏と最近別れたのかな。それとも、女性のアレが近いとか…ってわたし何考えてるんだ。この人のことなんて推測してどうする。


「アナタ、気に入らないわ」


 あの、ちょっと意味が…頭の中で言いかけた時、頬に衝撃がはしった。あぁ、平手打ちされたのか。一瞬の出来事なのにそのスピードについてきているわたしの思考回路が逆に凄いなぁなんて他人事のように考えてるうち、頬も段々とヒリヒリしてきてやっと実感が湧いた。
 気に入らないだけでこの人はぶつのか。逆らおうとも思わないけど、こうやって上司のストレスも有無を言わず受け入れなきゃならないなんて本当に嫌になる。


「ちょっと。コイツぶっていいの僕だけなんだけど」

「ダリル少尉!?」

「ど、どうして…」


 ダリルって、さっき向こうへ行かなかったっけ?じゃあどうして此処にいるんだろう。まだ行ってなかったとか?いやいや。


「コイツで遊んでいいの僕だけなんだけど、何してんの?二人とも」

「…なんでもありません」

「ふぅん、しらばっくれるんだ。じゃあこの頬、何?」

「わっ」


 クイと無造作にわたしの顎を掴んで見せ付けるようにする。自分の頬なんて見れないから分からないけど、多分少し赤く腫れてるんじゃないだろうか。
「「申し訳ありません!」」

「次は無いからね」


 今度はわたしの腕を掴んで歩き出す。お姉様方をその場に残して。あ、書類!なんて言ってもダリルは止まらずずんずん進んでいってしまう。


「だ、ダリル、何処行くの」


 するとピタッと足を止めた。こっちを向く気配は無い。腕も掴んだままだ。


「名前は僕のでしょ、何他の人に触らせてんの」


 不可抗力です、そう言おうとしてやめた。いや、言えなかったのだ。振り返ったダリルの目にうっすら涙が滲んでいたから。どうして貴方が泣くの、意味、わかんない。


「ごめん」

「何が」

「……」


 いきなり謝ったかと思えば黙るし、今日のダリルはちょっと変。いや、だいぶ。


「消毒」


 歩み寄ってきたダリルは腫れている右頬に触れた。それは壊れ物を扱うようでもあり、無造作でもあった。


「ダリル、いたいよ」

「うるさい黙れ」


 そしたらダリルはぽろぽろと涙を零し始めた。どうして。どうして貴方が泣くの。わたし別に大丈夫なのに。他人から殴られることぐらい慣れてるのに。
 その涙は綺麗だった。そう言えば、ダリルの涙はいつ以来見てないんだろう。昔は泣き虫で、わたしが守ってあげてたのに。


「っ、ひっく、」

「、名前も泣いてんじゃん」

「うっさい、」


 わたし達は暫くその場で泣いた。互いに何も言わずに、ただただ泣いた。


必死なんだ、
俺も、お前も。

わたしの代わりに泣いてくれてありがとう

□□□□
ネタ提供さんくす!しかしなんか違う…始めからダリルを好きで良かったのか、いや、違ったような…なんて思ってたらこんなのができたよ!\(^0^)/ゴメンネ!ダリルちゃんまじ可愛いぎゅーしたい素直になれないとこまじかわいい。

120313

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