『プルルルル プルルルル』
頭の中で電子音が鳴り響く。
『プルルルル プルルルル ガチャ』
「もしもし?わびす、」
『お掛けになった電話番号は電波の届かない所にあるか、現在使われブッ ツーッツーッツーッ』
「っ」
“ガンッ”
物を大切に使え、彼がわたしに言った言葉だ。車を傷つけるような奴なんかに言われたくない。わたしはそう言葉を返した。物に当たってしまうことが多いわたしにそんなこと出来る筈がない。無理に決まってる。
目の前に転がった、開いたままの携帯電話。なんだか急に愛おしくなってそっと拾い上げる。いつも粗末に扱ってごめんね。そう思いながら撫でたところは色が少し剥げていた。
「電話くらい出ろよ、バカ」
独りきり、呟いた言葉は誰にも届かずに消えた。
──あれから一週間。そう頭の片隅で思い出すわたしはまるで他人のようで。でもそんな筈が無く、わたしの横に空いた空間はいつまでもわたしにまとわりついた。どんなに手を伸ばそうと、彼の指にたどり着くことは、もう、……
*****
「お母さん、わたしやっぱり戻るね」
「あら、もう帰るの?まだ少ししかいないんだからもっとゆっくりしてけばいいのに」
そう言って母は言葉を並べていく。わたしが行ってしまうのを少しでも遅らせようとしているみたい。
このまま音信不通で無かったことに…だなんて絶対に嫌だ、絶対に。貴方がわたしと話すのを拒んでも、わたしは貴方に会いに行く。そう決めたの。
「あの人は良い人だからねえ」
言葉の最後にこう置いた。母には全てお見通しなのかそれとも、なにもわかっていないのか。けれどもその言葉に救われたのは事実だった。
「いってきます」
「また顔見せなさいよ」
「うん、ありがとう」
*****
ドアノブに手をかけてから何分たったのか。いや、本当はまだそんなにたっていないのかもしれない。電車を乗り継いでくる間に色々と考えを巡らせてきた筈なのに… 脳内を嫌な考えがよぎっては消えていく。
というか、鍵は空いてるのだろうか。手をぐるんと回せばすぐに結論が出るのにそれを出来ないのはまだわたしの中に迷いがあるから。別に空いていなくたって合い鍵を持っているから入ることは可能だけど…なんだか閉め出されたみたいに思ってしまう。ドアを開けるのも躊躇われる。
「わっ」
「いつまで其処にいるつもり?」
早く入れば、なんて素っ気なく言う彼に胸が高鳴ったりして。ああなんてわたしは単純なんだろうとか思いながら、でも部屋の奥へと行くその後ろ姿に抱きつきたくて仕方なくなってしまって。でも、自分だけが余裕無いだなんて許せないからいつもと同じと同じように部屋に入った。侘助の匂いに安心している自分がいる。
「ねえ、何で電話出てくれなかったの?」
「俺はずっと此処で待ってた」
「電源切って?」
「お前ならすぐ帰ってくるって信じてたから」
「…わたしがいなくて寂しかった?」
「…ああ」
侘助の思惑通りに動いてるようで少しむっとしたけれど、もうそんなことどうでもいい。わたしには彼が必要で、彼にはわたしが必要なのだから。
僕みたいな君 君みたいな僕
「飯作って」
「やだ。まだぎゅっとしてたい」
「……少しだけな」
「うん」
≫甘党主義。さまへ提出
110422