「ねえこれ此処でいい?」
「うんおk!」
「あっ編集長来たぞ!」
「みんな定位置に!」
静まり返った編集部に、ドアの開閉音がやけに響く。編集長が歩いてそれからあの編集長の椅子に座ったらわたしがまず第一の行動を起こすことになっている。
あ、座った。今か。
「編集長!」
「ん、なんだ?」
「誕生日おめでとうございます!」
わたしの言葉と共に、みんながクラッカーを鳴らして一斉に部屋は音に包まれる。クラッカーの他にも拍手をする人と、『お誕生日おめでとうございます』の紙を壁に貼る人がいる。これもどれもわたしが立てたプランなの。
「はい、編集長。今日は編集長が主役ですからこれ被ってて下さいね」
「…ああ」
紙でできたとんがり帽子を編集長に渡すときちんと被ってくれた。拒まないんだ…意外。キラキラしてるから顔よりも帽子の目立ってしまっている…これは計算外でしたごめんなさい。因みにそれは百均で買ってきた奴なの!
「おいこれ苗字やんなよ」
「わたし個人的にプレゼントあるからいい」
「編集長どうぞ」
「日頃の感謝を込めて俺達みんなからです」
「…ありがとう。なんか花とか、照れるな」
副編とチーフから花束が送られる。これもわたしが今朝買ってきた奴。花屋で3000円で見繕ってやってもらった。
わたしは今年から入ってきた新人だ。去年までは編集長の誕生日を盛大に祝うなんてことは無かったらしい。でも、この中で一番偉い人の誕生日くらいみんなで祝ったっていいじゃないか!と思い、案を出したのである。
まあ普通の新人だったらそんな話は上司の耳にも入らない訳なのだが、わたしは編集部の紅一点(自分で言うのもアレだけど)だから今回のことが実現したのである!
「じゃあわたしからはこれ!開けて下さい」
「…キャットフード?」
「はい!編集長猫の日生まれじゃないですか、だから我が家の猫達にあげる高級の奴1個もらってきちゃいました」
「……」
「あれ?苗字って猫何匹飼ってるんだっけ」
「7匹です」
「多いな…」
「名前は?」
「シャルル、アウト」
「アウト!?凄い名前だな」
「ガニメデに、ヘス、ロア、オウゴ…」
「衛星の名前…」
「…あと一匹は?」
「もしかして覚えてない?」
「おっ、覚えてますよ失礼な!」
「で?名前は?」
「…あっ、撫子です」
「なんでその名前忘れんだよ…」
「あはっ」
編集長が猫の日生まれとか、ギャップ凄いと思うのさわたしだけかな?あんなちょっと厳つい顔してるくせに猫に囲まれてる所を想像するとすんごい優しい顔してると思うんだよねぇ。
「お前は子供か」
「いやだなあ編集長。ちゃんとした社会人ですよもう。この間だって三浦と服部さんと雄二郎さんと吉田さんと飲み行って…」
「おっおい苗字!それは内緒って」
「へ?あ、そーいえば」
「そういうことを言っているんじゃないが、三浦!」
「何で俺だけっ」
「あ、そう言えば」
編集長が三浦の胸ぐら掴んでる光景を横目に自分の机に行く。ごめんよ三浦。てかどうせ三浦だしいいよね。新人だけど三浦はタメ口で話している。どっちかっていうと三浦は頼りない兄って感じだよね。
「皆さん、ケーキ溶けちゃうから食べましょうよー」
「えっケーキなんてあるの?」
「わたしが作ってきました!」
「おお!」
「さすが女性!」
「とりあえず5ホール作ったんですけど足りますかね?」
「そんだけあれば足りるだろ」
「じゃあ適当に切ってくんでみんなとってって下さい。三浦と山下は最後ね」
「へい」
「なんで俺まで」
5ホール全てをナイフで切っていく。てか切りすぎたらどうしよう…ま、男性だしみんな食べるよね!こうやってわいわいしたりする編集部の空気が好きだ。何より話していて楽しいし、就職難な現代なのに良い仕事場だよ本当に。
「編集長、」
「なんだ?」
「わたし此処が好きです。此処のみんなが」
「……」
「だから、ありがとうございます。わたしを此処で働かせてくれて」
「苗字はもう、編集部に馴染んでいる。一緒に飲みに行くくらいにな」
「はい」
「これからも大いに頑張ってくれ」
「はい!」
「それと…」
「?」
「今日飲みに行かないか?」
「喜んで!」
□□□□
かなりの遅刻。もう月が変わってしまったよ。編集長誕生日おめでとう!それにしても思うように書けない…orz
110307