「日向君今日もナイスなスパイクだったよ!」

「あ、ありがとう!」

「はちみつ漬けレモン作ったの!はいあーん」

「んぐっ!」

「「「かっわいー!」」」


 ギャーギャーギャーギャー騒ぎやがって、はっきり言って煩い。アイツを普通にプレイできるまでに育て上げたのは俺で、さらに正確すぎるトスを上げてるのも俺なのに。そんなことも知らねえ癖に日向だけちやほやちやほや……べ、別に羨ましいとかそんなんじゃねぇし!


「日向、ランニング行くぞ」

「うわっ」


 うだうだと考えるループから抜け出そうと日向を連れ出した。腕引っ張ったらコケそうになっていた。どんだけ弱いんだお前は。


「ねえ影山君…」

「……」

「影山君ってば」

「煩い話しかけんな」

「自分でランニング誘っといて!?」


 コイツを誘うのは馬鹿だった煩すぎる。ランニングも黙って出来ないのか、と思っていたら黙って俺の少し後ろを走っていた。やれば出来んじゃん。


*****


 もう一度体育館に戻ってくる頃には、人影が少なくなっていた。さっき騒いでいた女子たちもいない。って何でホッとしてんだ俺。


「じゃあ僕は帰るよ、」

「腕立てと腹筋やれよ100回ずつ」

「う、………わかった」


 嫌そうに承諾すると肩を落として帰っていった日向。日々の積み重ねがお前を作っていくんだ。さてと、俺も帰るかな。


「影山君!」


 腰を上げた俺の耳に、女の声が届いた。俺の名前を呼んでいたから振り返ると、まあ其処に人はいるよな。


「誰」

「同じクラスの…苗字、です。前回の席で隣だったんだけど……」


 覚えてない、か……と頭を掻きながら寂しそうにソイツは笑った。普段机に座ってる時は大抵寝てるし、筆記用具一式忘れて貸してもらったこともそういえばあったような気がするけど顔はちゃんと見てなかった。今更んなってちょっと悪いなって思う。


「そうだよね、影山君ってバレーのことしか興味無いもんね!大丈夫、わかってるから!」

「……」

「……」

「で、何でお前は此処にいんの?」

「本当は試合後にすぐ渡したかったんだけど、…なんか周りの女の子達に圧倒されちゃって…勇気出なくて…」

「試合終わった後からずっと待ってたのか!?」


 こくりと縦に頷いた。何で俺なんかを待って……よく見るとソイツの手にはタオルがあった。


「影山君すぐランニング行っちゃったけど、荷物置いてあったから帰ってくるかなって思ったの。あ、今汗かいてるよね?このタオル使って!」


 無造作に投げられたタオルは俺に届く前にほたりと落ちた。そのタオルを拾い上げ、軽くはたいてからガシガシと頭を拭いた。


「もう遅いから帰れ」

「えっでもまだ夕方」

「いいから帰れ」


 歯を食いしばって今にも泣きそうな表情をみせた彼女は、自分の私物らしい鞄を拾って走ってドアに吸い込まれていった。


「くそっ」


 素直になれない自分に腹が立った。


*****


 その夜、わたしは声を殺して泣いた。何故、影山君が怒ったのか、怒らせてしまったのかわからなかったからだ。少し話せたからって調子にのってしまったのかもしれない。でもタオルは受け取ってもらえたし、今だって影山君が持ってる。じゃあどうして…?
 影山君の意図が、わからなかった。


*****


「(また来てしまった…)」

「「きゃあああっ!」」


 日向君が強烈なスパイクを打つ度に聞こえる黄色い歓声。わたしはそれが響く中にいた。

 確かに、日向君のスパイクは凄くて相手が打ち返すことなど出来ない程強くて強烈な武器にはなっている。そこにいる女の子たちは口々に「きっと死に物狂いで練習したんだよ!」と言うけれど日向君だけが凄い訳ではないとわたしは思う。日向君は途中から入ってきたメンバーだし、なのにこの数ヶ月で他の人を凌ぐあのスパイクが打てるようになっただなんてそんなのは天才か何かだと思う。……わたしが言いたいのはセッターである影山君のことだ。あの人の正確なトスがあるからこのチームは成り立っているんだと思う。影山君がいなければ、日向君だってあんなスパイク打てる筈が無いもの。だから、一番凄いのは影山君なのだ。……と結論づけてみたりする。

 バタバタと二階の観客席から人が降りていく。どうやら試合が終わったみたい。点数も知らないままわたしも人に流され降りていく。今度は遠くから見るだけでいいから。見れるだけでいいから。

 一階入り口のドア付近に立って中の人の様子を見る。どうやらまた買ったみたい。今のうちはバンバン勝ててもそのうち対策しだすだろうなあ。


「苗字、」


 ぼんやりと考え込んでいたら、目の前に影山君がいた。この前のことを怒られるんじゃないかと身構えたけど、そうではないみたい。普通に試合に疲れている様に見える。それにしても、水も滴る良い男って言葉が似合うなあ。実際には水ではないのだけれど。


「タオル」

「へ?」

「っ、今日はタオル無いのか?」

「あっあるっ!はい」


 どうして話し掛けてくれるのだろう、わたしはこの前怒らせてしまったというのに。彼はタオルを受け取ると、前と同じように頭を拭き、汗を拭った。
 どうして、どうしてとわたしは自問自答を続けるばかりなのだが、影山君が今までに見たこともないような優しい笑顔をしているからどうでもよくなってしまった。


「お疲れ様」

「ああ」


 たった少しの会話なのに、無性に嬉しくて顔が綻んだ。わたしは知っている。影山君が本当は凄く仲間思いの努力家で、でも素直になれないことを。


「この前のタオル」

「うん」

「次の試合ん時返す」

「次も来ていいの?」

「だから、ずっと来い」


 わたしの質問の答えになっていなかったけど、多分影山君はわざとそうしたんだと思う。ていうかぶっちゃけもうそんなことはどうでも良かった。ただただ嬉しかった。あの時怒ってたのか、それとも怒っていなかったのかだなんて今になってはもうわからない。けどこれだけはわかるの。
 影山君。やっぱり貴方は優しい。


「苗字、   。」




何を求めて
いるのかも知らずに

今わかった。
君だ。




お題:xxさま
□□□□
この女の子は中学時代バレー部所属という設定です。(書いてる途中からそうなった)だから試合見ただけでそういうことがわかるって訳です。
影山君可愛いです日向君も可愛いけれど。私としては選べませんね!^ワ^ってかこの子達は高校一年生であってるのかしら?

110129

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