「エースさんっ!お誕生日おめでとうございます!」
「おう、ありがとな」
「ケーキ焼いたんですよ、食堂まで来てくれますか?」
コイツはこの親父の船にいるコックの1人だ。俺が船に乗るよりも前から居て、でも俺より年が下。だからかなのかわかんねえけど敬語を使ってくる。敬語じゃなくていいって何度も言ってるのにきかねえんだ。一度決めたことは絶対に譲らない、何気に頑固な奴だってことも知った。
「はい、どうぞ」
「凄いな」
「そんなことないですよ」
バカデカいサイズのショートケーキ、ホールだ。多分俺が大食いなことを思って作ったんだろう。綺麗にデコレーションされたケーキに赤いイチゴが目立つ。真ん中にはチョコレートのプレートに『Happy Birthday Ace』と書いてある。もうこいつパティシエールになれるんじゃないか?
「……とか言って〜、とりゃっ!」
「………名前てめぇ、」
「あはははっ」
名前はケーキを俺の顔面にブチ当てた。帽子までクリームついてやがる…くそ…。あいつは俺を何だと思ってんだ。この船の二番隊隊長だぞ!?
あ、でもケーキ自体は甘くて美味い。
「一回やってみたかったんですよねー」
「燃やしてやろうか」
「ちょ、待って下さい!それは無しの方向で!エースさんはご飯中に寝ちゃうから結果一緒ですって!……て痛あ!」
「お返しだ」
「お返し以上ですよこれ!女の子に頭突きなんて頭どうかしてるんじゃないですか!?」
「あ?何処に女がいんだ?」
「エースさんの馬鹿!てかわたしにもクリームついちゃったじゃないですか!どうしてくれるんですか!」
「知るか。ンなもん」
「もういいです。食堂の片付け、宜しくお願いしますね」
「は!?……行くの、はや」
床を見てみると、さっきの口喧嘩が伺える。白いクリームがあちらこちらに飛び散っていて、赤く染まっている所は、踏んだ跡だろう。
雑巾を絞り、クリームを拭き取っていく。なんだかんだ言って押しつけられた仕事をやる俺は偉いと思う。てか名前も馬鹿だよな。折角自分で作ったケーキをあんな風にしちまうなんて変わってるよ。
*****
「あ、エースさん」
片付けが終わった俺は甲板を歩いてたら前から名前が歩いてきた。塗れている髪をタオルで拭いているところを見るとシャワーを浴びてきたらしい。俺に片付けさせてる間に入ってきたってのか、抜け目ない奴。
名前は俺が今日誕生日だって、本当にわかってんのか?
「言い遅れましたが、あけましておめでとうございます」
すれ違いざまにそう言った名前の言葉に謝罪の気持ちは含まれていなかったように思う。
110101