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「あ、雨」


 彼女が窓の外を見やったのを見て、僕もそのことに気が付いた。耳を澄ませばしとしとと雨の音がする。梅雨の季節だと僕は思った。


「雨って気分下がるよね」


 まだ僕の顔は見ずに、そう言った。そして、「池沢はヒッキーだからわかんないか」と僕を馬鹿にして付け加えた。その笑い方はどこか自嘲的であった。期待にそぐわなくて申し訳ないけど、僕だって雨の日の気が沈んだ感じはわかる。こういうのを憂鬱と言うんだったか。第一、僕は引きこもってなどいない。ちゃんと、学校にだって行っている。その他の時間は家で過ごすことの方が多いけど。


「雨に濡れるのって凄い嫌じゃない?特に歩いてて跳ねる水」

「別に何とも思わない」

「池沢っていつもそうだよね」


 君は僕の何を知っているんだ。心の中ではそう思ったけど、口には出さなかった。反論する気になれなかったから。これも低気圧の所為なのだろうか。


「でもね、濡れようと思って濡れるのは大好きだよ?自ら雨に打たれるの」

「何で?」

「何でってほら……」

「嫌いなんじゃないの?」

「嫌いだけど、嫌いじゃないの。だってこう、雨に打たれたりすると、解放感あったりしない?なんか流されてくみたいで」

「わかんない。ていうか変」

「変なのは池沢」


 変=僕という等式が彼女の中には固定概念として備わっているらしい。そしてそれを覆すことは僕には叶わないらしい。僕にとって変なのは彼女なのに。僕は至って普通なのに。キングであること以外は、どこにでもいる普通の学生だ。


「1人で打たれに行くの?」

「ついてきてくれる人なんていないし、これ言ったの池沢が初めて」


 どう反応していいのかわからなくて、僕はその言葉を流してしまった。言い方は別に寂しそうじゃなかった。だから前半について言うことはないんだと思う。


「あ、ねえねえ傘貸してよ」

「やだ」

「さっき濡れるの嫌いだってあれほど…」

「泊まってけばいいじゃん」


 その言葉を聞いて彼女は動きを止め、ゆっくりと僕を振り返った。


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