わたしを愛しいと言ってくれた彼は、最後に「 」とだけ残して息を引き取りました。それは、わたし達が出会った季節が桜の舞う頃であったとか、買ってもらったサーコートのことであったりとか、将又わたしがよくしていた逆剥けのことであったりとか。考えは尽きないもので、わたしは毎日をただ単々とこなしながら、そしてぼうっとした毎日を送っています。貴方の部下はよくわたしのことを気にかけてくれ、そして仕事なども忙しくなったようですが、皆それぞれに事実を受け止めようと躍起になっているように見えます。もう少し落ち着いたら、なんてわたしの言える言葉ではありませんが、そう声もかけたくなるものです。生前、貴方がよく仰っていたのは、何事にも捕らわれずに生きて欲しいということと、窓際の花への水やりを忘れないように、でした。2人で選んだ最初で最後のこのアネモネも、沢山の花を咲かせています。まるで我が子を見ているようだと思うわたしは可笑しいでしょうか。この間突然気分が悪くなりシャマルのところへ行ったんです。そしたらわたしのお腹に貴方の子がいました。もしかして、貴方は超直感でこうなることをわかっていて、こんな風に貴方のぬくもりを残していったのではないかと考えてしまいます。もしそうだとしたら、貴方はとてもずるい人ですね。わたしに貴方を忘れることなど出来る筈がないのですから、こんなことをしなくてもわたしの中から貴方は消えたりしないというのに。でもやはり、嬉しいと思ってしまいます。この子にはきっと「 」の付く名前を名付けようと思っています。貴方のような素敵な人に育ちますように。



さよならの「さ」

120307

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