「…来ちゃった」


 目の前には寝癖がついたままでスウェット姿の彼が目を大きく見開いている。きっとさっきまで寝ていたんだろうな、はねた髪でさえ愛おしくなる。


「おはよう、飛雄」

「お、はよう…」


 駄目だこの子、まだ起きてない上に状況把握できてないみたい。折角のお休みの日だし寝かせてあげればよかった。けどそんなことできる筈ない。飛雄の誕生日なのに、何もしないで家にいるなんてこと。
 飲み込めてない飛雄の側を通り、おじゃましますと部屋に入る。


「ってオイ!」

「あ、やっと起きた」

「なんでいきなり…」

「たまにはお家デートもいいかなーと思って。だめ?」


 そう聞くと、彼は口元を手で隠し明後日の方を見た。隠したいのかもしれませんが、真っ赤なお耳でバレバレですよ、とは心の中だけにしておく。だって照れてる飛雄なんてなかなかお目にかかれないし。本当は写真にでも撮って拡大コピーして部屋に貼りたいぐらいなんだけど、流石にそこまでいくと引かれそうだし怒られそうだからやらない。


「コーヒーでいいか?」

「うん」


 まだ温かくないこたつからして、やっぱりずっと寝ていたんだろう。とは言え、彼の家に来るのは初めてで、緊張してない訳がない。わたしの大事なモノをあげにきた訳でもないけれど。


「ほら」

「ん、ありがと」


 コーヒーを持ってきた彼は、わたしの隣に腰掛けた。寝癖の付いた髪に触れると少し顔をしかめて、でも拒否はしなかったのが嬉しかった。


「で、今日は何しに来たんだ」

「誕生日おめでとうございます。ということでケーキ買ってきたんで食べません?」

「…朝からか?」

「いいじゃん、朝ケーキ」


 流石のわたしも考えてホールじゃないからね?それで勘弁してちょうだい。まあ、飛雄は甘いものあんまり好きじゃないから殆どわたしが食べることになるんだろうけど(それが狙いだとは言わない)。


「あーんしてあげよっか、はいあーん」

「いい、自分で食う」


 折角食べやすい大きさに切ってあげたっていうのに、フォークを引ったくって大きな口で食べた。白いクリームと赤い苺が彼の中へ消えていく。よく噛んで味わった筈の彼は納得のいかない顔をしている。予想通りだ。誕生日に好きでもない、寧ろ嫌い寄りの食べ物を食べなきゃいけないっていうのも可笑しな話だわ。


「プレゼント悩んだんだけどさ、キーホルダーとかは縛り付けてるみたいで嫌だし、ケーキはもうあげちゃったし、必勝のお守りもいいかなと思ったけど飛雄強いし、ていうかお守りよりキスの方があげたいし、何がいいか決まらなかったんだよね。飛雄決めてくれない?」


 次の瞬間、視界が反転した。背中に固い感触。温まったフローリング。画面いっぱいの飛雄の顔。その向こうの電気。いや、ちょっと待て。だからわたしはわたしの大事なモノをあげにきた訳じゃないって!


「ちょっと待って。わたしはクリスマスにあげるからそれ以外で」

「え、」

「それ以外で」


 きょとんとした顔の飛雄。まさかこの展開は想像していなかったのだろう。でもちゃんと、わたしだって考えていたのよ。4ヶ月付き合ってまだ関係がないなんて、流石に酷かなとも思ったし。そろそろいいかなって。飛雄ならいいかなって。


「嫌だ」

「なンッ!?」



「クリスマスはセックスの日じゃねぇんだよ」

「ぁ、」


 そうか、




□□□□
クリスマスはセックスの日じゃないって言いたかっただけ。小さい頃何かとクリスマスと一緒にされて、それを、思い出して苛々してムカついて、その反動で。いやー、頑張れ飛雄!そして遅れちゃってごめんなさい。とび、愛してます。

121224

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