※執事アレン
「アレン…」
「どうかなさいましたか?お嬢様」
「寒い」
「それではこの温かい毛布を、」
「アレンがいい。アレンは温かいもの」
そう呟くお嬢様は、嘘を仰っている。お嬢様のことをこんな風には言いたくないが、でも実際そうなのだ。私の体は先程まで外に居た為冷え、指先ですら冷たいのだから。だからお嬢様が温かいなんていうのは間違っている。
しかし、お嬢様は頑固者なので、一度そう自分で決めてしまったら他の者が何と言おうと頑として聞き入れない。お嬢様のお父様、お母様であっても、ましてや、お嬢様が幼い頃からお供してきた私でさえも。こんなことを言うのは烏滸がましいと自分でもわかっているが、でもこのように言わせる程お嬢様は頑固なのだ。
かと言って、冷えた体を抱き締めるなんてお嬢様の体に障る。先程から準備しておいた毛布で自分ごとお嬢様を包む。
「温かい」
「でしょう。お嬢様の為に温めておきましたから」
「自分は冷えてるのに?」
「………」
「可笑しな人」
そう言って笑うのです。相変わらず体を離さずに。
自分の立場をどれだけ呪ったことでしょうか。こんなに近くにいるのに、決して近い訳ではない、寧ろ遠いこの距離。お嬢様と執事。悪くないじゃないですか。どうして一緒にいるだけの、一時の過ちなどに成りうるのでしょうか。身分違いの私がこんな幻想を抱いてどうにもなりませんが。執事はどうしてお仕えしているお嬢様と一緒になれないのでしょう。誰よりも、他の誰よりもずっと近くにいたのは他でもないこの私なのに。お嬢様をお守りするのはこの私なのに。
「アレンの部屋はいつも暖房がついていないの?」
「いえ。先程まで出ておりましたので」
「じゃあ今日はこのままわたしの部屋に…」
「なりません、お嬢様」
「どうして?夜寒いのよ」
「お布団を暖めておいてる筈ですが…もう少し温度を上げた方が宜しいですか?」
「違うの、人間ゆたんぼ」
ああもう、そんな顔でお願いされたら断ることなんて出来る訳がないじゃないですか。小さい頃はよく一緒に寝てくれたのに、なんて。大きくなった今は分をわきまえなければいけないのですよ。この感情を押し殺すように。お父様お母様に気付かれないように。
「おやすみ、アレン」
「おやすみなさい、お嬢様」
お嬢様が寝付くまで。それまでと心の中で決めたのに、こんな時間が続けばいいと思ってしまってる自分に無性に腹が立った。部屋の角にあるゴミ箱に捨てられたらどうなに楽だろうと考えるまでもないことを思った。
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なんか思うようにネタが浮かばないと嘆いていたらうおちゃんが助けてくれたよ!感謝!
大好きな執事アレンくんです。勿論ロングヘアの。アレンを自分の物だと思っているから何も考えずに我が儘を言うけれど、アレンにだって感情はあるんです、というお話。お嬢様の我が儘を聞くのは嫌いじゃないんです。
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