それは一目惚れと呼んでも可笑しくないかもしれなかった。






「ご注文はお決まりでしょうか」


 たったその一言で、わたしは惚れていた。恋に落ちていた。寒さを凌ごうと入った喫茶店のウエイターの白い髪の少年に。おでこには独特な痣がある。星?


「コーヒー、と…」


 どうしよう。何頼もう。焦れば焦る程メニューの上で目が泳ぐ。それを見かねた様に、オススメのケーキを教えてくれ、わたしは何も考えずにそれを注文した。はっきり言って、少年が何を勧めてくれたのかさっぱり覚えていない。注文を承った少年がキッチンへ帰るとき、盗み見たプレートには「ウォーカー」と書かれていた。ウォーカーさん、かぁ…。


「お待たせいたしました。アイスコーヒーとベリータルトです」

「あ、ありがとうございます」


 タルトの上の果物達がキラキラと輝いている。作ったのはこの少年じゃないんだろうけど、とても大事なものに思えてきた。初めてもらったもの、でもないけど、このお店で初めて注文したものだし、と自分の中で理由を付けて写真を撮った。とっても良い写真が撮れた気がする。今はブロガーとかツイッターやってる人も多いし、写真撮ったっておかしくないよね。

 一口掬って口に運ぶ。オススメなだけあって美味しい。気付けばパクパク食べていて、皿の上は空っぽ。残りのコーヒーを飲みながら本を片手に仕事中のウォーカーさんを盗み見た。こちらに気付いてほしいような、気付いてほしくないような、そんなもどかしい気持ちをコーヒーと一緒に喉の向こうに押しやって、わたしは店を出た。


*****


「今日のオススメは?」

「ストロベリーショコラです」

「じゃあそれ、下さい」

「かしこまりました」


 何回か通うようになって、ウォーカーさんにも顔を覚えてもらえるようになった。あまりにも何度も来るものだから、「いつもありがとうございます」なんて言われたりして。もしかしてウォーカーさん目当てなのバレてるんじゃないかとか寧ろバレていてほしいとか、わたしの中はいつも終わらないループが回っている。
 もう、いいかな。


*****


「…あの、ウォーカーさん!」

「貴女は…もしかしてずっと此処で待って!?」

「はい」

「何やってるんですか!女性が1人でこの寒い中にいるなんて!それにお店出たの、何時間も前じゃ…」

「ご、ごめんなさい…ウォーカーさんとお話してみたくて…でもシフトがいつまでかわからなかったし…」

「聞いてくれれば良かったのに」


 従業員出入り口でウォーカーさんを待ち伏せしていたら怒られてしまった。確かに、外はとても寒くて手がかじかんでしまったけどウォーカーさんのことを思えば待つことができた。こんなに待っておいて今更帰るとかできないし、お店にずっと居座るのも申し訳ない。なんて思っていたのだ。結局は怒られてしまったけど。


「今日はもう遅いし、送ります」

「いやそんな!申し訳ないですし!」

「この暗い中女性を1人で返せますか」


 何だかんだで流されてしまって自分の家へ送ってもらうことになった。わたしの家は此処の喫茶からそう遠くなくて歩いて15分程度だ。そのことを伝えても送ると言って譲らないところを見ると、彼は紳士だと思った。


「手貸してくれますか」

「え?はい…」


 突然のことに、1人高鳴る胸を押さえながらそっとウォーカーさんの手に重ねる。


「こんなに冷えてる…これ来てください」

「そんな!ウォーカーさんが冷えてしまいます!」

「僕はいいんです」


 そう言って羽織っていたコートをわたしにかけてくれた。ウォーカーさんは下にジャケットを来ていたからまだ良かったけれど、もし薄いシャツだったら絶対に返していた。ありがとうございます、と白くならなくなった息と共に返事をした。


「ウォーカーさん、」

「アレンでいいですよ」

「…アレンさん」

「何でしょう?」

「……」


 何気ないところで彼のフルネームを知った。胸をドキドキいわせながら彼の隣を歩く。嗚呼なんて幸せ。ずっとこの時間が続けばいいのに、なんて思ってしまうあたり、わたしは相当彼に惚れ込んでいるらしい。


「初めて話した時も、こんな風に貴女は言葉を詰まらせていましたよね。懐かしい」

「お恥ずかしい…忘れてください」

「忘れる訳ないじゃないですか、他人との出会いなんて」


 きゅん。心臓が大きく脈打った気がした。こうして今日も彼はわたしの心をわし掴んでいくんだ。


「そういえば、貴女の名前をまだ聞いていませんでした。伺っても宜しいですか?」

「苗字名前といいます」

「名前さん、ですか」


 名前を呼ぶ。只それだけのことなのに、どうしてこんなに意識してしまうんだろう。


「此処です。今日は本当にありがとうございました。あの、これ…」

「それは次店に来た時に返してください」

「あ、じゃあ、これ」


 わたしは身に着けていたマフラーを外してウォーカーさんに手渡した。


「次行ったときに取りに行きますね」

「…わかりました。お待ちしてますね」


 そう言ってわたし達は別れた。最後にふわりと笑ったウォーカーさんの顔が忘れられない。




光る星

□□□□
気が向いたら、続き書きます。

121004

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -