「ちょ、あかんやろ苗字!」
「何が?」
「何って、その、こういうのは、あかんやろ、」
「こういうことって、何?」
「苗字!分かっとんのやろ!?」
「言ってくれなきゃ分かんないよ、一愛」
「っ」
あーもう、可愛いんだから。そんな風に頬染めちゃって誘ってるの?誘ってるんだよね、だからわたし欲情したって仕方ないよね。一愛が悪いんだから。確かに最初に一愛に乗りかかったのはわたしだけど、そんなことは関係ない。
「女子同士でこんなこと、可笑しいやん…」
「じゃあわたしが男の子なら良かった?ねえ」
「ち、ちが、そうじゃなくて、兎に角止めようや、苗字」
「名前で呼んで」
「は、」
「わたしは一愛って呼んでるじゃない。だから一愛もわたしを名前で呼んで」
「そ、その、なぁ」
「なんで!?サーヤは名前で呼んでる癖に!どうしてサーヤは良くてわたしは駄目なの、ねえ!」
「あっ、苗字、一回落ち着こ?な?」
「ほらまた!そんなにわたしが嫌い!?」
「嫌いな訳あらへんやろ!」
「じゃあ、呼んでよ…」
「…名前」
「一愛!」
「く、るし…」
名前呼んでくれたことの威力が大きすぎて、思わず一愛に抱きついた。腕でちょっと首を絞めてしまったみたいで、顔を歪ませていたけどそんな一愛の表情も可愛かった。部室に設置したカメラ、後でちゃんと確認しなきゃ。
「一愛…」
「だから、その、名前!顔近いって…」
「だから?」
「そういうのはもう、終わりにしようや…」
その時、後ろのドアが開く音がして、そこには部長とパソコンオタクが立っていた。部室は目見開いてるし、オタクは眼鏡が邪魔してよくわからない。見せつけてやろうか。一瞬そんなことをわたしの中によぎったのだがそんな考えはすぐに捨てた。こんなに可愛い一愛の姿をこんな野郎共の前に晒すわけにはいかない。
「……お前等何してんの?」
「お楽しみ中だから、今日は帰ってねボッスンスイッチ」
『お邪魔しました〜!』
スイッチには訳がわかったようでボッスンを引っ張ってすぐに去ってくれた。またこんなことがないように、念には念を入れて、部室のドアの鍵を閉める。あ、そう言えば鍵ってボッスン持ってるんだっけ、今日最後わたしなのに…まぁいいか。そもそもわたしがドアに鍵を掛けていなかったことが問題だ。でも、鍵なんて掛けたら可笑しいし、変に一愛を警戒させることだけは避けたかったしな。
「名前〜…っ!?」
「……」
もういいやと思い、強行突破で唇を押し付けた。目見開いちゃって。可愛いんだから。そんな一愛と目が合う。ばちり。
「キスする時は普通目を閉じるんだよ、一愛」
「な、ななな、なんで」
「何でって、一愛が好きだからに決まってんじゃん。何を今更」
話しながら一愛の左手をとって、リストバンドをずらす。手首の内側に口付けて思いっきり吸ってみる。よし、付いた。また何事も無かったかのようにリストバンドを元の位置に戻す。顔赤いね、一愛。
「これで一愛はわたしのものだからね?」
隠れたシンデレラ
(貴女は祝福されたのです)
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キスマーク付ければ自分のものになるとか思ってるとんだ馬鹿やろうです。因みにヒロインもスケダン員ですよ。次の日そわそわしながら部室に入ろうとするボッスンとスイッチに、見回りの先生がボッスンだけを捕まえて「昨日の管理はどうなってたんだ」的なことで怒られ、原因は名前だってわかってるのに弁解しないというボッスンも可愛いと思ry
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