しゃがんでた。影山が。王様が体育館のテニスコートの真ん中で、しゃがんでた。


「どうしたの」

「……」


 影山は何も言わなかった。只、下を、床を、見つめているだけで。いや、本当は何も見ていないのかもしれない。わたしの場所から見えるのは、王様の黒い頭だけだから。頭に王冠は乗ってない。
 わたしは優しくなんてないから、その場に居座ることにした。影山の近くに腰を下ろして。


「…どっか行け」

「ヤダ」


 絞るように出た言葉を蹴散らすと、影山はほんの少しの勇気を捨てるように肩を落とした。影山の声はとてもか細くて、いつもの影山からは想像できないような、弱々しい声だった。
───王様、らしくないよ。
 影山は王様って呼ばれるの、好きじゃないから言葉には出さないけど、王様って言葉は似合うと思う。過去に何があったか知らない。知ろうとも思わない。貴方は今の貴方なんだから。


「…あー、俺、かっこわり」


 沈黙を崩すように呟かれたその言葉に、わたしはいてもたってもいられなくなっていて、


「飛雄はかっこいいよ」


影山の唇に口付けてそう言った。後悔は別になかった。
 当の本人ははっと息を飲んで視点を床からわたしに移した。キスしたことに対してか、初めて名前で呼んだことに対してかは知らない。


「目、覚めた?」

「…あぁ、おかげさまで」


 荷物を持って帰ろうとする時に、唇をさわっていたのをわたしは見逃さなかった。




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