「先輩、おめでとうございます」

「ありがとう。あ、チョコもありがとね、美味しかったよ」

「本当ですか!?良かった…」


 今日で真城先輩はこの谷草北を卒業する。ずっと仲良くしてもらっていて、(どうやって仲良くなったのか、もうよく覚えていないけど)数日前のバレンタインでチョコを渡したのだ。勿論本命だけれど義理として渡している。不毛なことはしない質だから。こんなわたしが先輩と釣り合う訳ないもの。


「もうこうやって、真城先輩とお話出来ないんですね」

「そうだね。寂しくなっちゃうな」

「わたしもです」


 真城先輩と話せない、ましてやもう会えないなんて『寂しい』なんて言葉で片付けられるものじゃない。真城先輩の行く大学とわたしが行きたい大学は違う。だからもう、本当にお別れなんだ。


「泣かないでよ、名前」

「だって…」


 真城先輩はわたしの知らないところへ行ってしまう。まだ何も伝えてないのに。嫌だ、嫌だよ。行かないで、まだ卒業しないで。それが言えたらどんなに楽になるだろうか。


「全くもって会えない訳じゃないんだから。俺だってコンビニ行ったりするし、たまには外に出るし。ね?」

「は、いっ…」

「あーもう」

「……真城、先輩?」


 呆れられたかと思った次の瞬間、わたしは真城先輩に抱きしめられていた。びっくりしすぎてちょっと反応が遅れてしまった、ような気がする。
 真城先輩って細く見えるけど意外と背中とか肩とかガッチリしてる。やっぱり男の人なんだ。


「名前はいつもそそっかしくて」

「はい」

「俺が見ててあげなきゃって思う」

「…」

「メアドも教えるよ。だからいつでもメールして」

「ま、真城先輩」

「なに?」

「なん、で…」

「ずっと名前が俺のこと見てたの、知ってたよ」

「えっ」


 真城先輩は賢いから、バレてしまったんだろうか。十分気をつけているつもりだったんだけど…いや、でも、…わたしの気持ちを知ってたって…は、恥ずかしい。じゃあこの二年間、ずっと分かってたのかな。それってちょっとずるい。


「なのに名前、何も言ってくれないんだもん」

「き、気持ち知ってるなら、いいじゃないですかっ!」

「名前の口から聞きたいんだよ」


 これは玉砕フラグ?なにそれ辛すぎる。真城先輩はわたしに何をさせたいんだ、


「真城先輩、」

「なに?」

「…」

「っ」


 乾いた音が響いた。わたしの手が真城先輩の頬を叩いたから。


「そうやって、人の気持ちを弄ぶのよくないです!」

「名前っ!」


 そしてわたしはその場を逃げ出した。あーあ、やっちゃった。暴力的な女に格下げだ、きっと。メアド教えるって話も、多分パー。わたしだってビンタする人なんかとメールなんてしたくないもの。
 最後なのに、なんてことしたの、わたし…。


*****


「こんなところにいた」


 それは音楽室。グランドピアノの下に体操座りしていた。
 真城先輩の左頬は少し赤くなっている。


「ごめんなさい、先輩」

「いや、俺こそごめん。弄ぶとか、そういう訳じゃなかったんだけど」

「だったら態々言わせなくたっていいじゃないですか。わかってるんでしょう?そんな、わたしだけ惨めな想い、したくないです」


 いくらわたしの気持ちを知っているって言ったって、これじゃ告白してるのとそう変わらないじゃないか。


「、真城先輩が、好きでした、ずっと!一目惚れでした、だから先輩と仲良くなって、お話できるようになって凄い嬉しかったんです。ただ、それだけです。さようなら!」

「なんでそんなに逃げようとするの」


 また駆け出そうとしたら腕を掴まれて阻止された。目頭が熱くなる。またさっきの涙が出てきそうだ。


「こっち向いてよ」

「嫌です」

「何で」

「嫌だから!」

「あぁほら、また泣いてる」


 名前は泣き虫だなーなんて指で涙を拭ってくれる。真城先輩は呑気でいいかもしれないけど、わたしにとっては全然良くない。振られるのわかってるんだから。告白しといて答えは後で良い!って言う人達と同じ。今はいっぱいいっぱいで、振られるっていう余裕すらないんだ。


「卒業しないでください、先輩…」

「卒業しないよ」

「…嘘はいらないんです」

「嘘じゃない。名前からは卒業しない」

「へ、」

「俺も好きだよ」

「…嘘はいらないって、言ってるじゃないですか」

「こんなことで嘘ついてどうするの。じゃなきゃこんなことしないから」


 先輩がぎゅうってしてくれる。真城先輩に包まれて、安心するわたしがいた。信じていいのかな、


「暇なとき家来て良いから…あーでも家より仕事場のがいるからそっちのがいいかも」

「先輩〜」

「あぁもう、泣かないの!」


 先輩が好きで好きで好きで好きで。育んだ恋心がこんな風に実ることってあるんだね、知らなかった。どうかずっと、わたしから卒業しないでください、先輩。




君の心臓で息をする


□□□□
妄想乙。亜豆ちゃん総無視ってみた。亜豆がいるから好きなように書けないこれ本音。付き合ってちょっとして、最高が大学始まって、名前ちゃんが高校帰りに大学の門で終わるの待ってたりして、チンピラに絡まれてるところを急いで最高が駆けつければいい。そんで何で来たんだよって怒ればいい。急に来たりすんなって怒ればいい。あーだいすきです。誕生日おめでとうございます

120218

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